会議室から出ようとする私に、朝霧君はスーツの上着を羽織りながら声を掛けた。


「今日、仕事終わりですよね?
駅まで一緒に帰りませんか?」

「え?」


極々普通に向けられた言葉なのに、つい戸惑って振り返ってしまう。
その瞬間、一体どんな表情を浮かべていたのかわからないけど、朝霧君は首を傾げて苦笑した。


「……あ、すごい警戒されてる」

「べ、別にそんな」


慌てて前を向き直して、背中を向けたままそう呟いた。


こんな普通の会話で一々反応してる自分が情けない。
他の同僚に同じことを言われれば、簡単に『いいよ』って返事が出来る言葉なのに。


本能で警戒してしまうなんて、それはつまり私が朝霧君の下心を探り過ぎてるってことだ。
そして私が無意識に警戒してしまう意味を、朝霧君も見抜いてる。


黙ったまま向けた背中に感じる視線が、私の返事を促している。
考え過ぎるのも無視するのも、なんだか朝霧君の思う壺のような気がして、私は俯いてボソッと呟いた。


「……いいよ」

「良かった」


肩越しにチラッと視線を向けると、朝霧君は曇りの無い笑顔を私に向けている。


「荷物取って来ます。
エレベーターホールで待っててもらえますか?」


警戒してる私の方が邪に考え過ぎだと思ってしまう位爽やかな笑顔。
うん、と頷きながら足を踏み出して、結局彼の一挙手一投足に完全に踊らされているのを自覚して悔しくなった。

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