神様の願いごと

石段をのぼって鳥居をくぐると、お社に座っている常葉の姿が見えた。

3日ぶりのご対面のはずなのに、常葉はいつもと変わらない調子で「遅かったな」とのんびり呟く。


「ゆっくり来たから。なんせ今日も神様、いらっしゃらないと思っていたので」

「すまないな。俺も色々と事情があるのだ」

「ふうん。別に、どうでもいいけど」


常葉の隣に腰かけて、持っていた買い物袋をがさがさと探った。


「饅頭か?」

「今日はアイスだよ」

「それも好きだ」


定番のソーダ味のやつ。安くてお財布に優しいし、当たったらもう1本なんて考えた人天才だ。

安いからちゃんと2個買ってきた。ひとつは常葉に。ひとつはわたしに。

ふたりそろって、外袋を開ける。


夏休みに入ってから、また一段と暑さが増した。セミも増えたし、不快さは上昇中。

それでも夏休みはやっぱり嬉しくて、これが一年中続けばいいのになあって割と本気で思ってる。

宿題のことは月末まで忘れる予定。甲子園の日程は忘れずにチェックしておかなきゃ。

せっかくだから楽しみたいし。だって来年は受験で忙しそうだから。

今年の夏は存分に、思い出に残るように、したいし。


シャクッとかじったアイスは、今日も甘い。


「ねえ常葉。安乃さん、亡くなったんだって」


シャク、と、次は隣から聞こえた。棒の付いたアイスを食べるのが下手な常葉は、アイスの減りがわたしより遅い。


「ああ、そうだな」

「知ってたの?」

「ああ。知っていた」


境内は今日も静かだ。ここだけ時間が止まっているみたいに、外の音が聞こえない。
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