徒花

結婚



それは、翌日の夜のこと。

突然、ピンポーン、とチャイムが鳴り、私はびくりとした。


急いで玄関まで行き、ドアノブについている鍵に手を掛けようとしたが、でもすんでで堪えた。


コウだったらどうしよう。

丸一日、考え抜いたって答えがでなかったのに、会って何を言えばいい?



刹那、ドアノブがガチャガチャと揺らされる。



「マリア。開けて」


私は思わずたじろいだ。



「コウ……」


と、声を漏らしそうになり、慌てて自分の口を押さえた。


ドア一枚を隔てた向こうで、コウは今、どんな顔をしているだろう。

怒りと恐怖心が同時に込み上げてきて、私は動けなくなった。



「そこにいるんだろ? 話があるんだ」


話って、何?


今、鍵を開けて、笑ってコウを出迎えれば、すべてなかったことにできたのかもしれない。

けれど、結局私は、プライドを捨て切れなかったのだと思う。



聞きたい反面、聞きたくないと思う自分もいて。



「じゃあ、そこで聞いて」


勝手なコウの言葉は、耳を塞いでても聞こえてくる。



「俺さぁ、千夏に会いに行ったんだ。お前と喧嘩して、むしゃくしゃして。もうめんどくせぇからあいつとやり直すのもアリだと思った。そんで、ヤッた」


コウは、嘘をついてさえくれない。

正直なのがいいわけじゃない。


私のためを思うなら、嘘で塗り固めてほしかったのに。
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