上司のヒミツと私のウソ
第2部

第1章 幼なじみ Close to you




 屋上の空がしばらくぶりに青い。

 青一色の中にぽかりと浮かんだひとつかみの雲に向かって、白い煙が左右に揺れながらのぼっていく。

 頭上にひろがる空だけを見ていると、ここが都会だということを忘れてしまう。のどかな光景だ。


「なに見てるんですか」


 突然、その光景に女の無愛想な顔が飛びこんできた。


「どうしたんですか、その椅子」


 俺が座っているパイプ椅子をじろじろ見ながら西森がいう。

 パイプは赤さびだらけで、座面のビニールは破けて中の黄色いスポンジがはみ出している。


「さあ。さっき来たらここに置いてあった」

 直射日光を受ける夏の屋上は暑い。パイプ椅子は貯水槽の陰に置かれていて、おあつらえ向きの特等席だったのだ。
< 268 / 663 >

この作品をシェア

pagetop