徹底的にクールな男達
カウンセリング
「ごはん……いらないんですか?」
「………」
「食べましょうよ。一口だけ」
「………」
「武之内さん」
まだ若いナースが、ベッドのそばにより、視線をバインダーから外したのが視界の隅で分かる。
武之内さん……。
まだ、私はこの名前なんだ。
「ごはん食べて、元気つけなかったら、子宮の治療が進みませんよ」
ぶわっと目から涙が零れた。
「あぁ……」
申し訳なく思ったのか、何なのか、ナースはティッシュを取り、すぐに手渡してくれる。
「ご主人さんに、来てもらいましょう」
「いえ…構いません」
「……DVとか、そういうわけじゃないんですよね?」
「…………」
そういうわけじゃない、けど……。
「そうなんですか?」
「いえ、そういうわけじゃ」
「…………うーん、あの、一度、精神科医の先生にカウンセラーしてもらったらと思うんです。ここ2日ほとんど食べてないし、今点滴がいってるから大丈夫ですけど」
「……」
「じゃあそうしますね。今から予約とってきますから、先生には早めにきてもらいます」
ナースはそう言い切り、見捨てていく。
依子は、白い天井をただ無心で眺めた。
家を出てビジネスホテルに泊まったが、眠れない日々が続いた。産婦人科に子宮の治療の説明を聞きに行くことすら考えられなかった。
食べる気力もない中で、睡眠薬という言葉が頭に浮かび、そのまま薬局に買いに行ってそこのトイレで1箱全部飲んだ。
今となっては、死にたかったのだろうか、とも思う。
トイレから出て、ホテルに戻ったのだが、そのエレベーターの揺れが気持ち悪くて倒れ、そのまま救急車で運ばれた。
だから、ビジネスホテルの片づけもしていない。
片付け、子宮の治療の説明、会社の復帰のこと、離婚届。
全部やりたくない。
「武之内さーん」
ものの20分程度で現れた白衣の女性は、およそ50くらいだろうと察しがつくような、年配の女性医師だった。
その、明るい声に、何故だか温かみを感じて顔を上げた。
「あ、点滴がついててもいっか」
おそらく白髪染めをしている髪の毛は綺麗なブラウンで、化粧もきちんとほどこし、白いブラウスにエンジのAラインのスカート、黒いローヒールを履いている。
点滴の中身を確認すると、こちらと目を合わせ、
「外行きましょう。歩ける?」
「……」
予想だにしないカウンセリングに、戸惑うと、
「車椅子にしましょうか」
「え、いえ、歩けます…」
トイレには行っているので歩けるし、車椅子なんて大げさで恥ずかしい。
「じゃあ、ゆっくりでいいから。 今日はお天気がいいし、ベンチにでも行きましょう。日焼けしないように、木陰でね」
カウンセリングというものを受けたことがない依子にとって、それは、ただの雑談のようであった。
予告通りの木陰のベンチに先に腰掛けた長月由見（ながつき ゆみ）医師は、
「はいこれ。お昼の病院食のジュース。ここでなら、飲めるでしょ」
ナースに下げられてはずの野菜ジュースが、白衣のポケットから出て来る。
「ありがとうございます…」
「私はコーヒーでごめんね」
同じようなパックのストローコーヒーを取り出した長月は、先に一口飲んで、今日全国でどれくらいの枚数の布団が干されてるのかしらねーと、独り言を言って笑った。
「病院食はまずい?」
思いがけない質問に、
「え、いえ……」
「まずいでしょ。いいのよ。私が作ってるわけじゃないから遠慮しなくて」
と、促してくるが、
「あ、いえ。本当に……病院食にしたら、おいしいかなとは思いました」
「あ、じゃあメニューが良かったのね。何だった?」
「……ハンバーグです」
「あ、それはいい方ね。八宝菜がおいしくないってゆー人が多いのよね。なんだか味が薄いみたいなの。そんでもって片栗粉の味が濃いみたいでね、片栗粉飲んでるようだって。一度患者さんと一緒に意見書に書いたんだけどね、通ったんだかどうなんだか」
「……」
長月は、一口コーヒーを飲む。
「お料理はする?」
「いえ……全然……」
「私も嫌いなの。面倒臭いじゃない? もうコンビニで100円でいいもの売ってるものねえ。誰が作ったって同じよ、と私は思ってるわけ」
そして、笑う。
依子も、同じように、つられて笑った。
「…笑顔が可愛い…。って言うと、女はじゃあ普通の時はどうなのって言いがちだけどね。あなたは純粋に笑顔が可愛い。
でもさっきは、泣いてたみたいね」
長月は前を向いたまま、続けた。
「何か、納得いかないことがあるの?」
「…………」
納得……。
「ご主人さんが、嫌い?」
「………」
嫌い……なんだろうか。
「じゃあ、好き?」
「…………」
好き……なんだろうか。
「結婚が、理想とは違った?」
「…それは…そうです」
「どんな結婚がしたかったの?」
「……どんな……。夢みたいな。白いカーテンをキッチンにつけて、家はマンションでもなんでもいいけど、私はエプロンを着て、ごはんを作って、で、旦那さんが帰って来てくれて……」
「他には?」
言いすぎたかなと思ったけど、まだ聞こうとしてくれている。
「旦那さんが優しくて、一緒に料理とか作ったり、一緒に食べたり、一緒に寝たり……」
「幸せそうねえ」
「…はい」
夢を語っただけなのに、涙が零れた。
「旦那さんは絶対に優しい人がいい」
「そうね」
「例えば、私が何かしようとすると、代わりにしようかって提案してくれたりとか、優しい言葉をかけてくれたりとか、優しく見守ってくれたりだとか」
「優しいってどんな風に?」
「……やわらかい、感じ」
「女性的な?」
「……あぁ……そうかもしれないです。外見もそういう方がいいし」
「今時のイケメンってやつね。草食系」
少し違う気がしたが、否定する表現方法も思いつかなかったので、
「そう…ですね」
「今の旦那さんは違った?」
「私のことを嫌っていることは、私にもわかっていました。同じ会社の上司なんです。結構仕事に厳しくて、私は仕事でミスをしたりするから、そのことをよく怒られていました。
同期の女の子でよく仕事ができる子がいるんですけど、その子は役職もあって、もちろん怒られてもいないのに、私はずっと怒られてて。結局倉庫番させられたり…そんな感じでした」
「それは、パワハラということ?」
「……いえ……。私も、仕事が雑だったと思います。だから、そういう意味では妥当な判断だとは思います」
「そのご主人と結婚するきっかけは?」
「私がレスエストになって、上司がそれを承諾して、ホテルに行きました」
「じゃあ、嫌いじゃなかったのね」
「……上司が言うには、相手が誰でもいいし、これは職務だから、という感じでした」
「そのホテルでは痛いことされた?」
「………」
そんなことはない、むしろ、感じたくらいだ。
「その、それ自体はそんなことありませんでしたけど…、避妊してくれませんでした」
「あらそう……」
「ゴムを持ってきてないって言ったら、つけたい方が持ってくるべきだって」
「まあ、女の人はあぁいうものは買いづらいしね、男性が用意してくれるだろうって思うわよね」
「はい」
「で、妊娠……したの?」
「その1回きりだったんですけど、アフターピル飲んだんです。でも効かなくて。そしたら、その子に運命を感じたとか言い出して結婚することにしたんです。
結婚したら、優しくしてくれると私も思ったから…」
「でも、流産しちゃったの……」
「……つわりが酷くて。それが終わったから、ごはんを作ろうと思ってマンションから出たところで階段を踏み外して。
何をしてるんだってすごく怒られて。離婚するって言ったら頬を叩かれて……。
でも結局うまくいかなくて、一週間くらい前、私が出て行くって言ったら離婚届を出してきたんです」
「……じゃあ、今の子宮内膜増殖症のことは、知らないの?」
「出て行ったあとに病院から電話がありました。
離婚届は出すなら出せばいいと思ってたけど……、これ出したら二度と私は結婚できないかもしれないし、癌になったら私は死ぬかもしれないし……だから私は……。
彼が優しくしてくれるのなら、このまま結婚してた方がいい気もするけど、あの人は子供が欲しいんだろうし」
心の内を外に出す爽快感とともに、涙が流れていく。
「色々……考えてたのね」
「……」
依子はそれには答えず、
「今だって、本当は来てもらって話を聞いてほしいとは思ってるんです。でも、離婚届渡した後で、病気の話されたってって思うかもしれないし、その病気だと知ったら子供のことが尚更うまくいかないかもしれないから、より離婚したいと思うだろうし。
そしたら、何でその気持ちを察しながらわざわざ病気の話を持ちかけて、同情を引くんだと思われそうだし」
「なるほどね……」
言い切った依子は、野菜ジュースにストローを指して飲んだ。このタイミングで飲みたいのは野菜ジュースよりコーヒーだったが、それでも喉が渇いたので飲んだ。
「でも、このまま何も言わないで離婚届け出したら、後悔しない?」
それは……。
「………」
「言って、それでも離婚ってなったら、後悔する?」
「………どっちがいいと思いますか?」
「うーん、そうねえ……。私が今まで診てきた患者さん達には、同じ後悔でも、やって後悔した方がいいって勧めてる。何をやるかにはもちろんよるけど、その、ご主人に言う言わないの事なら、その方がいいと、私は思う」
「……」
「付き添っててあげるから」
長月は、簡単に笑う。
「あ、付き添いはいらない?」
「……いえ……」
「家出てから全然連絡はとってないの?」
「とってないです…1週間くらい」
「連絡はないの?」
「携帯、見てないです」
「じゃあ充電切れてるかもね」
「かも……しれないです」
「病院にはもって来てる?」
「あ、ホテルかも……」
今になって、その所在のことを思い出す。
「ホテル? あ、ホテルでしばらくいたの…」
「はい、3日くらいですけど…」
「じゃぁまあ、病院からご主人の方に連絡とってもらいましょう。それで来てもらって。子宮の細かい説明は私じゃできないけど」
「簡単にでいいんで、言ってもらえませんか?」
「個人病院で検査したみたいだけど、その検査結果もらってるから、それ見せて簡単に説明することくらいはできるかな…。詳しくは専門医にって事でいいなら」
「お願いします」
「………」
「食べましょうよ。一口だけ」
「………」
「武之内さん」
まだ若いナースが、ベッドのそばにより、視線をバインダーから外したのが視界の隅で分かる。
武之内さん……。
まだ、私はこの名前なんだ。
「ごはん食べて、元気つけなかったら、子宮の治療が進みませんよ」
ぶわっと目から涙が零れた。
「あぁ……」
申し訳なく思ったのか、何なのか、ナースはティッシュを取り、すぐに手渡してくれる。
「ご主人さんに、来てもらいましょう」
「いえ…構いません」
「……DVとか、そういうわけじゃないんですよね?」
「…………」
そういうわけじゃない、けど……。
「そうなんですか?」
「いえ、そういうわけじゃ」
「…………うーん、あの、一度、精神科医の先生にカウンセラーしてもらったらと思うんです。ここ2日ほとんど食べてないし、今点滴がいってるから大丈夫ですけど」
「……」
「じゃあそうしますね。今から予約とってきますから、先生には早めにきてもらいます」
ナースはそう言い切り、見捨てていく。
依子は、白い天井をただ無心で眺めた。
家を出てビジネスホテルに泊まったが、眠れない日々が続いた。産婦人科に子宮の治療の説明を聞きに行くことすら考えられなかった。
食べる気力もない中で、睡眠薬という言葉が頭に浮かび、そのまま薬局に買いに行ってそこのトイレで1箱全部飲んだ。
今となっては、死にたかったのだろうか、とも思う。
トイレから出て、ホテルに戻ったのだが、そのエレベーターの揺れが気持ち悪くて倒れ、そのまま救急車で運ばれた。
だから、ビジネスホテルの片づけもしていない。
片付け、子宮の治療の説明、会社の復帰のこと、離婚届。
全部やりたくない。
「武之内さーん」
ものの20分程度で現れた白衣の女性は、およそ50くらいだろうと察しがつくような、年配の女性医師だった。
その、明るい声に、何故だか温かみを感じて顔を上げた。
「あ、点滴がついててもいっか」
おそらく白髪染めをしている髪の毛は綺麗なブラウンで、化粧もきちんとほどこし、白いブラウスにエンジのAラインのスカート、黒いローヒールを履いている。
点滴の中身を確認すると、こちらと目を合わせ、
「外行きましょう。歩ける?」
「……」
予想だにしないカウンセリングに、戸惑うと、
「車椅子にしましょうか」
「え、いえ、歩けます…」
トイレには行っているので歩けるし、車椅子なんて大げさで恥ずかしい。
「じゃあ、ゆっくりでいいから。 今日はお天気がいいし、ベンチにでも行きましょう。日焼けしないように、木陰でね」
カウンセリングというものを受けたことがない依子にとって、それは、ただの雑談のようであった。
予告通りの木陰のベンチに先に腰掛けた長月由見（ながつき ゆみ）医師は、
「はいこれ。お昼の病院食のジュース。ここでなら、飲めるでしょ」
ナースに下げられてはずの野菜ジュースが、白衣のポケットから出て来る。
「ありがとうございます…」
「私はコーヒーでごめんね」
同じようなパックのストローコーヒーを取り出した長月は、先に一口飲んで、今日全国でどれくらいの枚数の布団が干されてるのかしらねーと、独り言を言って笑った。
「病院食はまずい?」
思いがけない質問に、
「え、いえ……」
「まずいでしょ。いいのよ。私が作ってるわけじゃないから遠慮しなくて」
と、促してくるが、
「あ、いえ。本当に……病院食にしたら、おいしいかなとは思いました」
「あ、じゃあメニューが良かったのね。何だった?」
「……ハンバーグです」
「あ、それはいい方ね。八宝菜がおいしくないってゆー人が多いのよね。なんだか味が薄いみたいなの。そんでもって片栗粉の味が濃いみたいでね、片栗粉飲んでるようだって。一度患者さんと一緒に意見書に書いたんだけどね、通ったんだかどうなんだか」
「……」
長月は、一口コーヒーを飲む。
「お料理はする?」
「いえ……全然……」
「私も嫌いなの。面倒臭いじゃない? もうコンビニで100円でいいもの売ってるものねえ。誰が作ったって同じよ、と私は思ってるわけ」
そして、笑う。
依子も、同じように、つられて笑った。
「…笑顔が可愛い…。って言うと、女はじゃあ普通の時はどうなのって言いがちだけどね。あなたは純粋に笑顔が可愛い。
でもさっきは、泣いてたみたいね」
長月は前を向いたまま、続けた。
「何か、納得いかないことがあるの?」
「…………」
納得……。
「ご主人さんが、嫌い?」
「………」
嫌い……なんだろうか。
「じゃあ、好き?」
「…………」
好き……なんだろうか。
「結婚が、理想とは違った?」
「…それは…そうです」
「どんな結婚がしたかったの?」
「……どんな……。夢みたいな。白いカーテンをキッチンにつけて、家はマンションでもなんでもいいけど、私はエプロンを着て、ごはんを作って、で、旦那さんが帰って来てくれて……」
「他には?」
言いすぎたかなと思ったけど、まだ聞こうとしてくれている。
「旦那さんが優しくて、一緒に料理とか作ったり、一緒に食べたり、一緒に寝たり……」
「幸せそうねえ」
「…はい」
夢を語っただけなのに、涙が零れた。
「旦那さんは絶対に優しい人がいい」
「そうね」
「例えば、私が何かしようとすると、代わりにしようかって提案してくれたりとか、優しい言葉をかけてくれたりとか、優しく見守ってくれたりだとか」
「優しいってどんな風に?」
「……やわらかい、感じ」
「女性的な?」
「……あぁ……そうかもしれないです。外見もそういう方がいいし」
「今時のイケメンってやつね。草食系」
少し違う気がしたが、否定する表現方法も思いつかなかったので、
「そう…ですね」
「今の旦那さんは違った?」
「私のことを嫌っていることは、私にもわかっていました。同じ会社の上司なんです。結構仕事に厳しくて、私は仕事でミスをしたりするから、そのことをよく怒られていました。
同期の女の子でよく仕事ができる子がいるんですけど、その子は役職もあって、もちろん怒られてもいないのに、私はずっと怒られてて。結局倉庫番させられたり…そんな感じでした」
「それは、パワハラということ?」
「……いえ……。私も、仕事が雑だったと思います。だから、そういう意味では妥当な判断だとは思います」
「そのご主人と結婚するきっかけは?」
「私がレスエストになって、上司がそれを承諾して、ホテルに行きました」
「じゃあ、嫌いじゃなかったのね」
「……上司が言うには、相手が誰でもいいし、これは職務だから、という感じでした」
「そのホテルでは痛いことされた?」
「………」
そんなことはない、むしろ、感じたくらいだ。
「その、それ自体はそんなことありませんでしたけど…、避妊してくれませんでした」
「あらそう……」
「ゴムを持ってきてないって言ったら、つけたい方が持ってくるべきだって」
「まあ、女の人はあぁいうものは買いづらいしね、男性が用意してくれるだろうって思うわよね」
「はい」
「で、妊娠……したの?」
「その1回きりだったんですけど、アフターピル飲んだんです。でも効かなくて。そしたら、その子に運命を感じたとか言い出して結婚することにしたんです。
結婚したら、優しくしてくれると私も思ったから…」
「でも、流産しちゃったの……」
「……つわりが酷くて。それが終わったから、ごはんを作ろうと思ってマンションから出たところで階段を踏み外して。
何をしてるんだってすごく怒られて。離婚するって言ったら頬を叩かれて……。
でも結局うまくいかなくて、一週間くらい前、私が出て行くって言ったら離婚届を出してきたんです」
「……じゃあ、今の子宮内膜増殖症のことは、知らないの?」
「出て行ったあとに病院から電話がありました。
離婚届は出すなら出せばいいと思ってたけど……、これ出したら二度と私は結婚できないかもしれないし、癌になったら私は死ぬかもしれないし……だから私は……。
彼が優しくしてくれるのなら、このまま結婚してた方がいい気もするけど、あの人は子供が欲しいんだろうし」
心の内を外に出す爽快感とともに、涙が流れていく。
「色々……考えてたのね」
「……」
依子はそれには答えず、
「今だって、本当は来てもらって話を聞いてほしいとは思ってるんです。でも、離婚届渡した後で、病気の話されたってって思うかもしれないし、その病気だと知ったら子供のことが尚更うまくいかないかもしれないから、より離婚したいと思うだろうし。
そしたら、何でその気持ちを察しながらわざわざ病気の話を持ちかけて、同情を引くんだと思われそうだし」
「なるほどね……」
言い切った依子は、野菜ジュースにストローを指して飲んだ。このタイミングで飲みたいのは野菜ジュースよりコーヒーだったが、それでも喉が渇いたので飲んだ。
「でも、このまま何も言わないで離婚届け出したら、後悔しない?」
それは……。
「………」
「言って、それでも離婚ってなったら、後悔する?」
「………どっちがいいと思いますか?」
「うーん、そうねえ……。私が今まで診てきた患者さん達には、同じ後悔でも、やって後悔した方がいいって勧めてる。何をやるかにはもちろんよるけど、その、ご主人に言う言わないの事なら、その方がいいと、私は思う」
「……」
「付き添っててあげるから」
長月は、簡単に笑う。
「あ、付き添いはいらない?」
「……いえ……」
「家出てから全然連絡はとってないの?」
「とってないです…1週間くらい」
「連絡はないの?」
「携帯、見てないです」
「じゃあ充電切れてるかもね」
「かも……しれないです」
「病院にはもって来てる?」
「あ、ホテルかも……」
今になって、その所在のことを思い出す。
「ホテル? あ、ホテルでしばらくいたの…」
「はい、3日くらいですけど…」
「じゃぁまあ、病院からご主人の方に連絡とってもらいましょう。それで来てもらって。子宮の細かい説明は私じゃできないけど」
「簡単にでいいんで、言ってもらえませんか?」
「個人病院で検査したみたいだけど、その検査結果もらってるから、それ見せて簡単に説明することくらいはできるかな…。詳しくは専門医にって事でいいなら」
「お願いします」
