お茶の香りのパイロット
そこまでルイリードが話をすると、フィアは涙をいっぱいためていた。


「おいおい、そんな顔しないでくれ。」


「最初から死ぬのがわかってて、私を利用しようと思ったの?」



「死ぬのはわかってたけど、利用しようなんて思ってないよ。
君を守りたいと思ったから助けたし、いろいろ調べさせてもらったり、話をしているうちにセイリールを託していいコだと思った。

それに・・・死ぬのが悔しいほどに好きになってしまったしな。
急ぎ過ぎて、恨まれているようだけどな。
でも、恨まれついでに・・・俺の子が重要なカギになるから聞いておいてくれないか。」


「俺の子って・・・ウソ・・・私やっぱり・・・。」


「まだ、気付かないか?
妊娠2週を過ぎてると思うけどな。」


「ルイ!ちょっと・・・男なのに、どうして当事者の私よりそんな詳しいこと言えるのよ。
イヤラシイ通り越して、怖いわ!」



「あはは・・・すまない。
じゃ、こうすればどうかな?」


ルイリードはブロンドのウィッグをかぶって、眼鏡をかけた。


「ああっ!!!う、うそでしょ!そ、そんな。や、やだっ・・・もう!どうして?

どうして・・・リアンティル先生が・・・ルイだったの?」



「俺はきちんと本名で自己紹介したはずなんだがなぁ。
お医者さんらしく、言葉遣いは優しくはしたけど・・・。くくっ。

僕はルイリード・セイ・リアンティルですから。
代々、産婦人科の医師をしています。
まぎれもない本当のことさ。」



「産婦人科の先生がレイプまがいなことをして・・・はずかしくないの!
いえ・・・あなたのことだもの、その子どもが鍵になるために目的があったのよね。」


「ああ、そうだ。
でも、これだけは信じて。
俺はフィアと普通に結婚してずっと過ごしたい。
できることなら・・・ずっと君と・・・セイリールとがんばっていきたい。

だけど、できそうもない・・・。口惜しいよ。」



「すぐにアーティラスを倒せば、終わるじゃない。
あなたなら、倒せるんじゃないの?
アーティラスと互角に戦えるでしょ?」


「無理なんだ・・・。
過去に戦ったことがあってな・・・俺はアーティラスからこの病を押し付けられたんだ。」



「そ、そんなこと・・・できるの?
あ・・・アーティラスは体が弱いからって話だったけど、今は元気ってことなの?」


「アーティラスの健康体こそ、俺の体といってもいい。
健康を奪われたのさ・・・。俺はドジを踏んだ。

妻と子を同時に目の前で殺されて隙ができてしまったんだ。
次の瞬間・・・体に激痛がして、俺は・・・こんな体になった。
何度もとりかえそうと思ったけど、もうだめだ。

ひとりでセイを扱いきれなくなってしまって・・・君の力を必要として・・・すまない。」



「謝らないで。そう・・・奥さんとお子さんがいたの。
あんまりな運命ね。
それだけで、死んでしまいたくなるわよ。

でも、ルイはみんなの平穏のために戦い続けて・・・尊敬どころかバカすぎよ。
バカすぎて・・・何にもいえなくなる。
犯されて妊娠までさせられたのに、抱きしめたくなるわ。」


「フィア・・・。頼むよ、子どもをしっかり育ててくれ。
俺の今の体はアーティラスの体ではあるけれど、俺の内臓と遺伝子はルイリードそのものだからさ。

いずれ小さな俺が君の生きる支えになるから。」


「わかったわよ・・・ルイの宿命や自分の宿命には腹が立つけど、受け入れるしかないんでしょ。

それに、私だってアルミスが好きだったはずなのに、毎日どんどんルイに魅かれていく自分がわけわかんなかった。

だけど、今はルイの傍にいる。
ルイが死ぬまでずっと・・・死んでもずっといるから。」



「ありがとう・・・フィア。
俺、まだまだワガママを言いまくるけど、力を貸してくれ。
俺のすべてをフィアに伝えるから。」
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