助手席にピアス
Sweet*9

おあずけ


平日五日間の業務が終わった土曜日の午後の空は、清々しいほどに高く澄み渡っている。涼しい秋の風に吹かれながら、トートバッグを抱えると目的地に向かって足を進めた。

まずは最寄り駅から電車に乗り込む。そして五駅目で降りると、今度はバスに乗り換えた。

ネットで調べた情報によると、目的地は駅からバスで二十分ほどかかるらしい。座席から見えるのは、駅前通りの街路樹。少し色づき始めた街路樹は、葉先がギザギザしていて楕円の形をしているから、きっと桜だろう。

春になったら、この数百メートル続く駅前通りが、桜の花が咲き乱れて綺麗だろうな……。

まだ冬も到来していないのに、満開の桜を想像しては、ひとりで勝手に心を躍らせた。

約二十分の旅を終えると、目的地の近くの停留所でバスを降りる。なだらかな上り坂をゆっくりと進めば、数メートル先の横断歩道の向かいの角地に建っている二階建ての一軒家が見えてくる。

淡いクリーム色の外観。日差しがたっぷり注ぐ、大きな窓。ガラス戸の扉。そして深いグリーン色のルーフには、白い文字で【ガトー・桜】と記されている。

電車とバスを乗り継ぎ、ちょっとした小旅行気分を味わった私は五段ある階段を昇り、ガラス戸の扉に手を伸ばした。けれど扉には、以前と同じようにCLOSEのプレートがかかっている。

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