例えばここに君がいて
1.あの泣いた日を覚えてる?


 春休みというものは、学生時代の休みの中で一番有意義に過ごせる休みだと思う。

夏休みも冬休みも、なんだかんだと宿題に追われるけれども、春休みは違う。
一応の課題は出されるが、新学期には担任も変わるんだ。確認だって適当だろう。

まして中学を卒業してから高校に入学するまでのこの期間なんて、しがらみも何も無くなって、気楽なもんさ。

 なんて思ってゴロゴロしていると、部屋の扉が轟音とともに開く。轟音というのは大げさじゃないぞ。勢い良く開きすぎて、ぶつかった壁の方が壊れるんじゃないかって心配になるほどの音だった。

 コントローラー片手にベッドに寝っ転がったまま入り口の方をみると、腰に両腕を当てて仁王立ちした母さんが、般若のような顔で俺を見下ろしていた。


「智(さとる)! ゲームばっかしてんじゃないわよ!」

「うわ。なんだよ。勝手に入ってくんな!」


 今日は日曜日。小学校の養護教諭をしている母親曰く、『掃除の日』だ。
いつもならリビングやトイレをひと通りやったら終わるはずなのに、今日はまだまだ戦闘体制のようだ。


「ねぇ、ちょっと手伝ってよ。春休みでしょう。物置部屋整理してんの。そろそろ壱瑳(いっさ)と琉依(るい)の部屋だって分けなきゃいけないでしょ」

「まだいいじゃん。これから小三だぜ? 後二年は一緒でも大丈夫だよ」


 一軒家の俺の家は二階に三つ部屋がある。そのうち一つは俺の部屋。もう一つが双子の弟妹の部屋。そしてもう一つが、とりあえず突っ込んでおけばいいっていう多忙な両親にとっては天の助けのような物置部屋だ。

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