甘い愛で縛りつけて
◇「覚えてねーの? 俺のこと」


河合実紅、21歳。
事務として高校に勤め始めて一年。

なんとか仕事にも慣れてきたところだし、職場の雰囲気も悪くない。
健康診断だって問題なかったし、献血で血液検査した時には、“男性並みの比重がある”って、いい血液だと太鼓判を押された。

家族関係も友達関係も、特に大きなトラブルもなくて、こういうのをまさに順風満帆とでも言うんだと思う。

ただ、一点を除いては。

「まぁ河合さん、そんな気を落とさないで」
「あ、いえ、大丈夫です。
別にそういう意味で好きだったわけではないので」

愛想笑いを返してから、事務員の先輩、田口さんに注がれたビールをぐいっと飲み込む。
何度飲んでも、決しておいしいとは思えない金色の液体が喉を冷やしながら通過してから、ふぅ、と軽いため息をついた。

今日は、来月から新しくうちの高校に赴任してくる予定の先生を招いての歓迎会。
年度初めの忙しい時期だし、さすがに全員出席とはいかないけど、ざっと見る限りでも20人くらいは参加しているみたいだった。


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