空のこぼれた先に

託されたもの




細い路地を抜けたころ、遠くで乾いた重い音が聞こえた。

それが銃声であったことは明白だったけれど、俺も、そして彼女も何も言葉にはしなかった。

後ろのほうで聞こえていた、追手の者と思われる足音は、その音を境に聞こえなくなっている。

俺は彼女を連れて一旦家に戻ることにした。


「とりあえず……、この街を出た方がいいんだよな」

家の中を歩きまわって、必要とおぼしきものを手にとっては鞄に詰める。

いつここに帰って来られるのかもわからない。

突然巻き込まれた状況は、俺にはとてもじゃないが背負いきれるものではないような気もしたけれど、自分でも意外なくらい、すんなりとこの街を出ることを受け入れられていた。


この逃亡は本来、自分には全く関係のないことで、彼女を守る義理などないことは分かっている。

いくら頼まれたとはいえ、どうして自分が追われる身になってまで、今日初めて会ったこの令嬢の身を引き受けなければならないのか、と思わないでもない。

それに、命を狙われていると分かり咄嗟に逃亡の手助けをしていたとはいえ、彼女が何者なのかも知らないし、もしかしたら彼女のほうが罪人か何かで、命を狙われるに足る理由があるのかもしれない。

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