赤ずきんは狼と恋に落ちる
我慢できなくなった狼



「なぁ、りこさん。今からどっか行かへん?」

「今からですか?」





***



ちほが実家へ帰って、2週間が過ぎた。

あの後、千景さんは大きなバッグを持って、「ただいま」と言ってくれた。





また一緒に過ごせる。

それだけで、十分だったのに。



帰って来てくれただけで、私はまた、千景さんともっともっと、近付きたくなる。



私が近い存在になるなんて、夢みたいなことは、ある訳がない。


だけど、今は「おはよう」とか、「行ってきます」とか、ごくごく有り触れた日常が、愛おしくなっている。



贅沢だなぁ、私。





***



窓の外を見ると、今日は久しぶりに晴れていて、天気が良い。


暖かくなりそうだ。



「天気も良いし、久しぶりにどこか行きたいです」



最近、千景さんとどこにも行っていない。



せっかくのお誘い、断る理由なんてない!




「よし、なら決まりな。11時くらいから出かけよっか。りこさんは、ゆっくり朝ごはん食べとってええから」



にこっと笑いかけてくれるので、私もそれに応える。


ここのところ、やっと自然に笑えるようになったのだ。



それだけでも、ちょっと進歩したと思う。





千景さんが作ってくれた朝ごはんを、お言葉に甘えてゆっくり食べる。


もっと近くなりたい。

だけど、今のままで、もう十分かも。


< 80 / 219 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop