疑惑のグロス
7:コードネーム:『フラワー』

「あら、苑美ちゃん。今帰り?」


商店街から少し離れた住宅街にある、フローラル広瀬。

いつも綺麗な色とりどりの花でみんなの心を癒す都会のオアシスだ。


閉店間近で店先に並んだ花を片づけている途中で手を止めて、ゆたのおばちゃんが声を掛けてきた。


「こんばんは。今日は少し残業が多くて」


……昨日、仕事を放棄して帰ったからね。


小さい頃から、ここで花屋を営んでいる広瀬家。

この辺の住人はみな、オアシスに心を寄せられるらしい。

お客さんとおばちゃんが、店先で話をする光景がよく見られる。


一人息子のゆたは、将来ココを継ぐものだとばかり思っていたのに、うちの会社に就職した。

おばちゃんの強い希望で、社会というものに揉まれて来いという事らしい。


あのキャラだから、販売流通課でもかわいがられて……というか、いたぶられているみたいだ。

社会人一年目の去年なんかは本当によく愚痴をこぼしていたもの。


希望通り、ちゃんと社会に揉まれてるらしいとおばちゃんに伝えたら、ケラケラと笑っていたっけ。

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