同期が急に変わったら…。〜将生side〜
はぁー。



月曜日。





いずみのマンションから一緒に出勤。

駅を出て、会社の少し手前。






『いずみ、俺ここから先に行くぞ。』

『うん。じゃあ会社でね。』






2、3歩進んだところで、

足を止めた。





あの事を思い出した。



隆也の社長の件。





いずみは、

もう、そっちに流されないとは思うが

一応、念のため。






いずみの方に振り返り、






『いずみ。』

『なに?』

『浮気すんなよ。』

『浮気?』

『俺がお前をもらうから。
よそ見すんなよ。』






いずみは、一瞬驚いた表情を見せたが

素直な返事が返ってきた。






『うん…。
もともとしてなかった。』

『知ってる。』

『……。』






そうだな。

大丈夫だ。





俺らの事、隆也に報告しとくか。






『じゃあな。』





俺は、

ゆっくりと歩くいずみとは対照的に

足早に会社に向かった。









今朝は、部課長会議からスタート。

会議室に入ると、

企画の夏木部長と営業部長が

なにやら話し込んでいる。






まさか……。






『おー、藤森。いいところに来たな。』





夏木部長は機嫌が良さそうだ。

まさかだよな…。





『おはようございます。』

『ああ、おはよう。
桐谷の件だが、
斎木部長に了解貰ったからな。』





やっぱりか…。





斎木部長は、営業部長だ。

営業1課から3課までの総責任者。

日頃は、出張や地方へと行く事が多く

かなり忙しい人だ。






どうやら、

その部長に了承してもらったらしい。





『は?』

『桐谷は企画に異動してもらうよ。』

『いや、俺は認めてませんが。』

『斎木部長からOK貰ったから
いいだろ?』

『ですから、そういうわけには…。』





……と、

ここで、会議が始まってしまい、

この話は中断されてしまった。






夏木部長。

勝手に決めやがって。

後からもう一度話す必要があるな。







かなりイラつきながら、会議を終えて、

夏木部長をつかまえる。





『部長!すみません。
もう少しお話を…』


『お前もしつこいな。
もうほぼ決定だ。諦めろ。』


『いえ。今、桐谷が抜けたら
営業も困ります。
考え直して頂けないですか?』


『もう、上まで通してあるんだ。』


『それでも、ウチは桐谷が必要です。
もう少し待って頂けませんか?』


『お前も頭が堅いな。
若い子でも他から貰えばいいだろ?』


『いえ、桐谷は優秀です。
せめて次の人材への引継ぎが必要です。
もう少し時間をもらえませんか。』


『もう、無理だよ。
桐谷にもそう言っておけよ。』


『部長っ!』






夏木部長は、さっさと会議室を出て行き

俺は、立ち尽くしていた。







勝手に進めやがって。

こっちの意見は無視かよ。






いずみにどう話す?





俺は、イラつく自分を抑える為に

喫煙所でタバコを吸ってから

営業1課のオフィスに入った。








『おはよう。』






やっぱり腹が立つ。

こっちにはこっちの事情もある。

企画の好きにしてんなよ。






デスクに座り、

パソコンを立ち上げる。






もう仕事に取り掛かっているいずみに

目を向けると、

いずみも俺を見ていた。






一瞬、交わる視線。






自分の力の無さに情けなくなり、

いずみから目を逸らす。






いや、目を逸らしてる場合じゃないな。






『桐谷。』





すぐにいずみに声をかけた。





『はい。』

『第2会議室行っててくれ。』

『はい。』





一応、話しておくべきだな。

いずみのがっかりした顔を見るのは、

俺もキツイ。






まだ諦めるわけにはいかない。

後で宮野の意見も聞いてみるか。







いずみが

席を立ちオフィスを出て行った。







俺はまずメールを開き、

急ぎの用件がないかを確認した。

が、今日に限って至急が入っていた。






すぐに電話で確認をとり、

部下に指示を出した。






ちょっと、時間をとられたな。






いずみの待つ会議室へ急いだ。





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