「必死だな、俺としたことが……。」


村崎胡桃を車から降ろすと
俺は窓を少し開け、
冷たい空気を車内に入れて
頭を冷やそうと思った。


「僕だけを見て……って
自分で言ってて笑えるよ。」


俺は確かに村崎胡桃を
手に入れたい。
俺の女にしたいと思っている。


ただ、そこまで本気かと
聞かれればなんとも答えられない。
ここんとこ、特定の女もいなかったし、
それで、ちょっと前から気になっていた
村崎胡桃に軽くちょっかい出してみたんだ。
誰もいない休憩室で。


大体、あの手のタイプには少々、
強引にいった方が時間も掛けなくて
済むだろうと、俺は考えた。


案の定、
今時の高校生でもしないような
キス一つで村崎胡桃は
顔をぽぉっと赤らめ、
そして目を潤ませた。


堕ちたなーーー


そう、確信したのに、
返ってきた答えは
考えさせてくれだって?


ざけんなよ。
会社では所謂、
爽やか王子キャラの俺だけど
実際は計算高く、王子様キャラも
もちろん、計算のうちに入っている。


けれど全ては穏やかに事を進めるために
俺が積み重ねてきたものだ。
人当たりの良いキャラさえ
演じていれば仕事関係にしても
女にしても困ることはない。
身の回りの事が全て
円滑に回って行くのだ。


俺はそうやって
これまで生きてきたんだ。
幾重にも層を重ねて
時には偽りも重ねて
そして今の俺を築き上げたんだ。
別に疚(やま)しくなんて
思ってやしない。
それが俺なんだと思っている。


兎に角だ、
そんな俺が甘い一声を掛ければ
簡単に女どもは尻を振ってついてくる
って言うのに、
村崎胡桃は考えさせてくれって
言いやがった。


面白いじゃん。
俺は何としてでも
村崎胡桃を堕としてやろうと
決めたんだ。


俺の女にしてやろうと。


なのに、
その矢先、
まただ。


いつだってそうだ。
飄々としてて
何にも考えてないようなくせして
二歩も三歩も俺より先をいっつも
歩いているヤツがいる。


ーーーーサトルさん、櫻井悟だ。


たまたま出先で
久しぶりに見かけたサトルさんは
相変わらず飄々としながらも
どこか自信に満ちていた。
どっからくるんだろうか?
全く不思議だよな。


そして何よりも驚いたのはーーー
何故か村崎胡桃を連れていた。


二人して和菓子を食べていたんだ。
楽しそうに、
賑やかに……。


俺は咄嗟に思った。
絶対に譲れない。
村崎胡桃だけは渡さない。


サトルさんにだけは
今回こそ、
絶対に負けたくない
って、思ったんだ。


それで苦し紛れに出した提案……。
試しで付き合ってくれって。
半ば無理かと思っていたけど、
サトルさんを上手くけしかけて
なんとか微妙な三角関係をスタート
させることが出来た。


これは俺にとって
最大のチャンスだ。


サトルさんと
ケリをつけるためにもーーー


この勝負、
本気でいかせてもらいますよ、
サトルさん。


窓をスーッと閉めると
俺は静かに車を走り出させた。









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