イジワル同期の恋の手ほどき
§ デートの心得 §

お弁当修業も終わり、今日は宇佐原と打ち上げにきている。
晴れ晴れとした気持ちで、いつもの店で大好きな手羽先を頬張っていると、宇佐原が言った。

「次は、ハレの日の弁当だな」

手羽先をかじったまま、「んー?」とのんきな返事をする。

「毎日の弁当は卒業したから、ピクニックはどうだ?」

手羽先を置いて、べとつく口と手をふきながら、首をかしげる。

「ピクニックって?」

「ほら、デートの定番。男は間違いなく、期待するぞ」

「うん」

「だから、練習しといたほうがいい」

「ええと、明日からピクニック気分で作ってみるということ?」

「それじゃ、雰囲気出ないだろ。来週の土曜は予定あるか?」

「別にないけど」

手帳も見ずに即答するのを見て、宇佐原が笑っている。
しまった、予定を確認するふりくらいすれば良かった。
ま、宇佐原に見栄はってもしょうがないけどね。

「じゃあ、レンタカー借りて、ドライブでも行くか?」

「宇佐原と?」

「そうだよ。いきなり、泉田さんをデートに誘う勇気もないだろう? 俺が実験台になってやる」

宇佐原とデートなんて想像できないんだけど。
泉田さんみたいにおしゃれな場所を知っているとも思えないし。いったいどこに連れて行かれるんだろう。

「ドライブって、どこに行くの?」

「行き先は俺にまかせろ。おまえは、弁当に集中してればいい」

そう言われて、思わずため息をついた。
なんだ、そういうことか。
ちょっとだけドキッとして損した。
これはあくまでお弁当作りの練習なんだ。
そして、小さな声でつぶやく。

「スパルタ教育」

「ん? なんか言ったか?」

わざと聞こえないふりをする宇佐原に、慌てて首を振る。

「いいえ、なんでもありません」

ほんとにいつになったら終わるのかな、このお弁当修業―――。

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