「リゼを正妃に?!」

宰相である父、サザーラント卿の使いの言葉に、エリスは顔色を変え、悲鳴の様な声を上げた。

長くエリスの父に仕えている女官は、エリスの剣幕に怯える事なく冷静に続けた。

「はい。宰相閣下は強く反対したのですが、王の意志を変える事は不可能でした」

「なぜ?! いくら陛下でも個人的な感情だけで正妃は決められないはず。それに肝心のリゼは七の宮の襲撃で連れ去られ行方が分からない。この様な状況で正妃など、なぜそんな話が通る?」

父が引き下がった事にも納得が出来なかった。父はエリスが正妃の地位に就く事を誰よりも望んでいたのだから。

「行方不明のリゼ妃が無事発見されたとの事です。既にフリード家のラフィン様がリゼ妃の護衛の為、兵を率いて向かわれました」

「ラフィン殿が?」

それならば、リゼが戻るのは間違いないだろう。

「一度でも敵の手に墜ちた妾妃を正妃になど許されないはず。王以外の男の手が付いた可能性の有る女をなぜ父も他の貴族も認めた?」

「宰相閣下も初めはその様な主張をして反対しました。ですが陛下が聞き入れる事は無かったとの事です……リゼ妃は連れ去られた時、既に陛下の子を身ごもっていたとの事です」

「……!」

強い衝撃に、エリスの顔が青ざめた。

手にしていた扇が、床に落ちて音を立てた。

バスク公の後ろ盾が有るリゼに子が出来たのなら、いくら宰相の父でも反対しきれないだろう。

他の貴族は考えるまでもない。

リゼが身籠もった……考えるだけで身体中に怒りが駆け巡り正気を失いそうだった。

「姫様、話はまた後ほどに致しますか?」

震えるエリスに、女官は気遣わし気な声をかけて来た。

エリスは首を振ると、女官を睨む様にして言った。

「父は私にどうしろと?」

「妾妃の地位を降りる様にとの事です」

「……!」

「リゼ妃は戻り次第、一ノ宮に入るとの事です。このままではエリス様はリゼ妃より下の身分になり、リゼ妃に仕えなくてはなりません。そうなる前に、二ノ宮を出る様にとの、宰相閣下のご命令です」

「……私がリゼに仕える?」

そんな事、何が起ころうと有り得ない。

けれど女官は憐れみの表情を浮かべながら言った。

「このまま後宮に留まれば、そうなります。正妃はエザリアで国王に次ぐ地位ですから。 宰相閣下ですら、リゼ妃に跪かなくてはなりません」

「父が……あのリゼに?」

「はい……無念ですが、バスク公の根回しも有りもう覆せない事です。リゼ妃がクラウス王の正妃と決まったのです。私達は敗北したのです」

――敗北した。

女官の言葉を理解した瞬間、目の前が真っ暗になった。

身体の力が抜けて行く。

椅子から崩れ落ちる感覚を最後に、エリスの意識は暗闇に飲まれた。

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