静まり返った夜更け、リゼの寝所は窓から差し込む月明かりで青白く染まっていた。

「……クラウス」

リゼが掠れた声で呼びかけると、クラウスは応える様に深く口付けた。

「……っ」

長い時間、クラウスに抱かれ続けた為か、頭に霞がかかって視線が定まらない。

それでもなぜか、いつもの様に疲れ果てて眠りに落ちる事は無かった。

「リゼ、どうした?」

普段と違うリゼの様子に気付いたクラウスが、心配そうな声で言った。

「自分でも分からないけど、気持ちが落ち着かなくて……明日、後宮を出るからかもしれません」

「警護は万全だ。相手が誰であれ、手出しは出来ないはずだ」

「そうですね。私が気にしすぎなんでしょうけど」

「今の状況を考えれば無理は無い」

クラウスはそう言いながら、リゼを安心させる様に抱き寄せた。

クラウスの逞しい腕に包まれていると、守られていると感じて安心出来る。

でも現実は、後宮内も外も問題だらけだった。

明日の参拝も無事に済むとは思えない。

神殿迄の移動の際、妾妃筆頭は誰が努めるか。

また、神殿での席……クラウスの隣には誰が着くか。

まだ出発もしていないのに、争いは始まっている。

そして、リゼもこの争いに無関係ではいられなかった。

自分が後宮で力を持つ事はクラウスの助けにもなる。

それに、公の場でエリス達に遅れをとっては、バスク家の立場も落ちてしまう。

エリス達に負けずにクラウスの隣に立ち、自分こそが未来の正妃だと示したい。

けれど、戦が始まると言うのに、後宮での争いをしていていいのだろうかとも思う。

今は皆で力を合わせなくてはいけないのに。

(私が身籠もる事が出来たら……)

クラウスの子を宿せば、状況は一気に変わる。

テオの後ろ盾が有る今、正妃になる事が出来るはずだ。

それなのにリゼが身籠もる気配は一向に無かった。

(……私にはどうして子供が出来ないのだろう。カレン様にはクラウスの子が出来たのに)

クラウスは頻繁に七ノ宮に来て、リゼを抱く。

誰よりも機会は有るはずなのに、未だに気配も無い事に段々と不安を感じ始めた。

「リゼ?」

クラウスの声に、リゼは悲しい気持ちのまま首を振る事しか出来なかった。

跡取りを産めない正妃など有り得ない。

(もし……私は子供が出来ない身体だったら……)

考えると不安で堪らなかった。

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