庭園を一人でゆっくりと歩いている途中、クラウスが足早に近付いて来る事に気が付いた。

「クラウス……」

「リゼ、こんな所で何をしている?」

クラウスが眉をひそめながら言う。

「ずっと部屋に閉じこもっていたから、少し身体を動かしたくて」

「だがまだ怪我が治っていないのだろう? 無理はするな」

クラウスは医師から話を聞いている様で、浮かない顔をして言った。

「はい。でも無理はしていないから、心配しないで」

微笑みながらそう答えたけれど、それはリゼ自身も気にかかっている事だった。

カイと共に後宮に忍び込んで来た男に切られた傷が、何故かなかなか治らなかった。

以前も切り傷を負った事が有ったけれど、その時に比べると格段に回復が遅れている。

(どうしてなんだろう……それ程深い傷では無かったのに)

こんな時に、何時までも部屋に閉じこもっているのは辛かった。

クラウスの話では、カイの協力者が後宮に居ると言う事だった。

一刻も早くその協力者を探し出したい。
その為にも、早く本調子に戻りたい。

焦る気持ちは有るのに、体調は優れなくて、日々弱って来ている事を感じていた。

せめて、気分を変えようと庭園を歩いてみたけれど、疲労が溜まっただけだった。

気分が晴れない原因はそれだけでは無かった。

あの日、クラウスの妃としてカイを捕らえる行動が出来なかった自分を思うと、罪悪感でいっぱいになった。

多くの女官達が犠牲になり、クラウスの身にも危険が迫ったのに、カイを敵と見る事が出来なかったし、逃げのびた事を聞いた時ホッとした。

クラウスはそんなリゼの心情に気付いているはずなのに、責める事は一切無い。

それどころか、リゼを気遣ってくれている事がよく分かった。

忙しい合間に、こうして様子を見に来てくれる。

「クラウス……ごめんなさい……」

悲しさと苦しさでいっぱいになりながら言うと、クラウスは切なそうに目を細めリゼを見下ろした。

「お前の気持ちは分かっているつもりだ。謝らなくていい……」

「……」

「風が出て来た。部屋に戻ろう」

「……はい」

クラウスに手を引かれ、七ノ宮に向かう。

(もっと、しっかりしなくては……覚悟をしなくては)

もう昔の様には戻れない。
サランは、エザリアの……クラウスの敵なのだから。

考えると胸が痛んだ。
苦しさのあまり、思わず立ち止まる。

「リゼ、どうした?」

クラウスが怪訝な顔をして言った。

「いえ、何でも有りません……」

そう言い、再び歩き始めようとした途端、視界が霞んだ。

「リゼ?」

クラウスの呼びかけにも答える事が出来ない。

身体から力が抜けて行った。

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