君が好きだから嘘をつく
とまどい
「柚原さん!」

「はい?」

終業時間になり、廊下に出てエレベーター前まで来た所で声をかけられ振り向くと、少し緊張気味な顔をした後輩の近藤くんがそばにいた。

「あれ?近藤くんどうしたの?」

今、営業部のフロアで姿を見たのに、ここにいるってことは追いかけて出てきたのだろう。

「あの!もしよかったらこの後一緒に食事へ行きませんか?」

仕事の話かと思っていたので、言葉の意味を理解するのに一瞬時が止まってしまった。

「・・・えっ?食事?」

「はい!ずっと柚原さんを誘いたいって思っていました。」

「・・・」

突然の誘いに戸惑っていると、積極的なのか近藤くんはさらに一歩近寄り、

「今人気のお店で料理も美味しいらしいです。だから柚原さんと行きたいと思っていたんです。イタリアンは嫌いですか?」

「・・嫌いじゃないけど」

「じゃあ!行きましょう」

あまりにストレートな誘いに言葉が出てこない。
目の前の近藤くんとの距離の近さにうろたえていると、

「そんなにオススメないい店があるなら行こうか」

ニコニコ笑いながら同期の澤田くんが、近藤くんの隣に立った。



< 6 / 216 >

この作品をシェア

pagetop