闇の雨
兆し、それは突然に


 ――あれ、何だ?

 部活の最中、神童快(しんどうかい)は、突然"違和感"に襲われた。

 寒い冬が終わり、桜が散り始めた四月のある夕暮れ。グラウンドを走っていた彼は突然襲ってきた何とも言えぬ"違和感"に、思わずトップスピードに差し掛かろうとしていた速度を落とした。

 ――何だ……?

 何の前触れもなく突然やってきた"違和感"。それはとても言葉では言い表せない感覚だった。

 ひとまずゴールまで走り切り、ベンチに行ってスボーツタオルを肩にかける。が、全然気分は治まらなかった。

 ――何だろう?

 "違和感"がだんだん、何とも言えぬ"気持ち悪さ"に変わる。それは本当に、初めての感覚だった。

 ベンチに座ったまま深呼吸してみるが全く治まらない。そのうち、座っているのさえ、辛くなってきた。

「神童?」

 快の様子に気付いた顧問で体育教師の橋本(はしもと)が、心配そうに駆け寄って来る。

「すみません。気分が……」

 言っているうちにもどんどん気持ち悪さが増してゆく。やがて、頭の奥がぐるぐると回るような感覚がプラスされ、遂に耐えられなくなり、快は思わず口元に手をやった。

「……すみません。今日は、もう……」

 そこまで言い、何とか立ち上がる。

「おい、大丈夫か?」

 顔面蒼白の快を見て、橋本が声をかける。快は黙ってうなずくと、そのままフラフラと部室へと向かった。



 吐きそうな訳じゃない。とにかく体が辛い。

 部室から教室、教室から自宅へとどうにか戻った快だったが、帰宅した途端、その何とも言えぬ"不快感"は治り、体が楽になった。

 ――えっ……?

 先ほどまでの不快感が嘘のようにかき消え、頭の奥にずっとあった、世界がぐるぐると回るような感覚も今は全然ない。快は思わず三和土(たたき)に立ちつくし、大きく深呼吸した。

< 1 / 163 >

この作品をシェア

pagetop