闇の雨
兆し、それは突然に
――あれ、何だ?
部活の最中、神童快(しんどうかい)は、突然"違和感"に襲われた。
寒い冬が終わり、桜が散り始めた四月のある夕暮れ。グラウンドを走っていた彼は突然襲ってきた何とも言えぬ"違和感"に、思わずトップスピードに差し掛かろうとしていた速度を落とした。
――何だ……?
何の前触れもなく突然やってきた"違和感"。それはとても言葉では言い表せない感覚だった。
ひとまずゴールまで走り切り、ベンチに行ってスボーツタオルを肩にかける。が、全然気分は治まらなかった。
――何だろう?
"違和感"がだんだん、何とも言えぬ"気持ち悪さ"に変わる。それは本当に、初めての感覚だった。
ベンチに座ったまま深呼吸してみるが全く治まらない。そのうち、座っているのさえ、辛くなってきた。
「神童?」
快の様子に気付いた顧問で体育教師の橋本(はしもと)が、心配そうに駆け寄って来る。
「すみません。気分が……」
言っているうちにもどんどん気持ち悪さが増してゆく。やがて、頭の奥がぐるぐると回るような感覚がプラスされ、遂に耐えられなくなり、快は思わず口元に手をやった。
「……すみません。今日は、もう……」
そこまで言い、何とか立ち上がる。
「おい、大丈夫か?」
顔面蒼白の快を見て、橋本が声をかける。快は黙ってうなずくと、そのままフラフラと部室へと向かった。
吐きそうな訳じゃない。とにかく体が辛い。
部室から教室、教室から自宅へとどうにか戻った快だったが、帰宅した途端、その何とも言えぬ"不快感"は治り、体が楽になった。
――えっ……?
先ほどまでの不快感が嘘のようにかき消え、頭の奥にずっとあった、世界がぐるぐると回るような感覚も今は全然ない。快は思わず三和土(たたき)に立ちつくし、大きく深呼吸した。
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