闇の雨
冷たい身体
「お父さん」
その夜、仕事を終えて帰宅した耕助に夕食を出しながら、困惑した表情で紗織が切り出した。
「今日、快の学校に呼ばれたんだけど――」
「ああ、そうだったな」
紗織の言葉に夕刊を読もうとしていた耕助が手を止める。「どうだったんだ?」
テーブルに夕刊を置いて耕助が紗織を見ると、紗織は膳を耕助の前へ置き、向かいの椅子に腰掛けた。
「あの子、早退が多くて、このままだと単位が足りなくて卒業できなくなるんですって。先生も体調が悪いのは判ってらっしゃるみたいなんだけど、診断書がないと休学手続きできないらしくて……」
「診断書……」
紗織の言葉に耕助が低く唸って腕を組む。「医者にはあれきり、行ってないんだろう?」
「ええ。点滴を受けに内科へは行ってるけど、それ以外は……」
「そうか……」
味噌汁と湯飲みから立ち上ぼる湯気が、天井へと吸い上げられる。その様をじっと見つめながら、耕助は深い溜め息をついた。
「もう一度、今度は違う医者に診せた方がいいかもしれんな。あの様子は普通じゃないだろう」
「そうね」
紗織がうなずくのを確認してから、耕助がようやく食事を始める。紗織はテーブルに両肘をつくと指を組んだ。
「最近は……瀬奈ちゃんとも会ってないみたいなの」
「え……」
その言葉に、耕助が箸を止め、何か考え込むように一度口を結んだ。しかし、何か言うでもなく、しばらくしてゆっくり食事を再開した。
「あたしたち、終わっちゃうのかも」
昼休憩の教室で突然、瀬奈がそう呟き、隣でジュースを飲んでいた菖蒲が頓狂な声をあげた。
「な、何? いきなり」目を丸くして菖蒲が訊いてくる。
「だって快、会ってくれないもん」
お弁当の唐揚げを箸でつつきながら、少しふてくされたような、やけっぱちな表情で瀬奈はボソボソ言った。