「す、すいません!」

 我に返り、ようやく一穂を誉の元から放した。

 誉から解放された一穂は、上半身を運転席へ戻すと、何度も自らの腰を擦った。

「それにしても、高橋君も意外と強引なトコがあったのね」

「――すいません……」

「もういいから」

 一穂は苦笑いを浮かべてはいたが、『もういいから』の一言の中に刺々しさは微塵も感じられなかった。

「私も、高橋君のことは……、その……、別に嫌いじゃないし……。それに、心底嫌だと思っていたら、昨日のことを謝ろうなんて考えもしなかったと思う……。
 他の男の人に嫌われるのは何とも思わない。けど、高橋君にだけは……、絶対嫌われたくない……」

 俯き加減に語る一穂は、年上の女性とは思えないほど初々しい。
 あまりの可愛らしさに、誉はまた一穂を抱き寄せてしまいそうになったが、今度はどうにか自分を制御させた。

「鈴村さん」

 一息吐いた後、誉は、意を決して口にした。

「今度、休みが重なる日があったら、ふたりで逢いませんか?」

 これは、精いっぱいの勇気だった。
 一穂の気持ちも自分に傾いているから、断られることはない。

 とは思うものの、やはり、不安は完全には拭い去れない。

 息をするのも忘れるほど、誉は一穂からの返事を待った。

「とりあえず、今週の金曜は休み」

 サラリと返ってきた。
 今週の金曜日――確か、誉も休みになっていたような気がするが、自信がない。
 帰ってから、改めて調べてみた方が良さそうだ。

「その日、休みになっているかかどうかあとで教えます」

 そう告げると、一穂は、「分かった」と頷いた。

[Chapter.2-End]

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