「それで明日なんですけど、確かに俺もバイトは休みになってたんですけど、日中は学校なんですよね。さすがにサボるわけにはいきませんし……」

 誉は言い淀んでから、意を決したように続けた。

「でも、夜だったら空いてますから、夜からでも良かったら……」

 一穂の鼓動が、ドクンと激しく脈打った。
 別に倫子が期待していたようなことを望んでいたわけじゃない。
 しかし、〈夜〉というキーワードひとつで全身に緊張が走る。

 一穂は小さく深呼吸をした。
 数回繰り返して落ち着かせてから、ようやく口を開いた。

「高橋君、アルコールはいける口?」

「アルコール、ですか?」

 突然訊かれ、誉は相当驚いたらしい。
 少しばかり間を置いてから、「ああはい」と頷いた。

「これでも酒は結構好きな方ですから」

「なら問題ない。私も久々に外で飲みたいと思ってたトコだったから一緒に行こう。最近は倫子も相手してくれなくなったから淋しかったのよね」

 最後の倫子の件は完全な言い訳だ。
 もし、倫子が側でこれを聴いていたら、あとから存分にど突かれていただろう。

 一気に捲し立てた一穂に、誉はしばし唖然としていた。
 だが、すぐに我に返り、笑いを含みながら、「いいですよ」と答えた。

「俺で良かったら八木さんの代わりになります。案外、飲みながらの方がゆっくり話も出来そうですしね」

「いや……。別に高橋君を倫子の代理人に仕立て上げるつもりじゃないんだけど」

「そうですか」

 慌てて否定した一穂を、誉はさも面白そうに眺めている。

「じゃあ、待ち合わせの時間と場所はどうします? 場所はどこでも構わないですけど、時間は七時以降の方が俺としては都合がいいんですけど」

「あ、そうだね。それじゃあ、ちょっと余裕を持って八時に駅で落ち合おっか? 場所は飲み屋街の中のどれかになるけど」

「分かりました。八時に駅ですね? 遅れないように行きますから」

「ちょっとぐらい平気よ。――と言いつつ、私の方が遅れたりして」

 一穂が肩を竦めると、誉は口元を綻ばせた。
 一穂も釣られて、思わず声を微かに上げて笑った。
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