『今年のクリスマスは早く帰れそうだから、食事にでも行こう』

 そう言ったのは、確かに俺だった。
 しかし、クリスマスといえば年の瀬で繁雑期。
 仕事の予定が予定通りにいかないこともある。

 むしろ予定通りにいかないことが、予定通りだったのかもしれない。

「仕方がないだろ。急な仕事が入ったんだから」

 俺だって、今日は待ちに待ったクリスマスだ。
 仕事なんかしたくない。
 でも、だからと言って仕事を放り出してデートに繰り出すことは出来ない。
 それが社会人だ。

 それでもなんとか時間までに片付けられるように努力した。
 努力してもダメだったんだから、どうしようもない。

「この埋め合わせは必ずするから」

 なのに、彼女は『そういう問題じゃない』『なんでもっと早く言ってくれなかったの』『楽しみにしてたのに』と俺を責めてくる。

 こうして電話が出来ているのも、頑張って仕事をこなしてひと区切りつけたからだ。
 本来なら貴重な休憩タイムになるところをわざわざ連絡しているのに、一息つくどころじゃない。

 ここで一言、彼女が『頑張って』とか『お疲れさま』とか『大好き』とか機嫌良く労ってくれたら、残りの仕事も頑張れるのに……

「ああ、わかった。一緒に食べよう」

 なんとか彼女をなだめすかして『せめてケーキは一緒に食べよう』という提案を受け入れ決着をつける。

 そして電話を切ると、用を足す間もなくオフィスに戻って行った。

「はあ~」

 ため息をつきながらデスクに戻る。

「お疲れ。とうとう振られたか?」

 彼女に電話をしに行ったことを知ってる同僚が、キーボードを叩く手を休めることなく話しかけてくる。

「せっかく、給料三ヶ月分の指輪買ったのにな」

 俺も椅子に座ると、すぐさまディスプレイと睨めっこをする。

「別れてないし。給料三ヶ月分とか、バブリーかよ」

 他愛もない会話を繰り広げながらも、キーボードを叩く音は止まらない。

 実は、給料三ヶ月分も考えた。
 だが、実際に給料三ヶ月分の指輪を見ると石がやたらデカいかゴテゴテしてるかで、あまりいいデザインがなかった。

 彼女の華奢な指には似合わないと思う。

 どうせなら生涯つけられる流行り廃りのないデザインがいいし、婚約指輪選びは難しい。
 でも、俺が贈った指輪が彼女の薬指を生涯彩り続けると思うと苦にはならなかった。
 むしろ、幸せだ。

「なーに、ニヤニヤしてんだよ。爆発しろ!」

 同僚の突っ込みを聞きながら、俺ははたっと気がついた。

「なんで俺が婚約指輪を買ったことを知っている!」

「手を休めるな」

 指摘され、驚きのあまり止まっていた手を再び動かす。
 隣を盗み見るが、同僚は俺の方などまったく見ていなかった。

「休憩時間のたびに、ネットや雑誌で指輪チェックしてたのはどこのどいつだ。気づかないと思ってたか」

 一応、同僚とのデスクには仕切りがついている。
 気づかれていないつもりだった。

「うわああああ!」

 恥ずかしさのあまり、仕事へと逃避する。

「早く仕事片付けて、彼女を嫁さんにしちまえよ」

 同僚も応援してくれているのか、キーボードを叩く音が早まる。

「ああー、でも先を越されるのはしゃくだー!」

 いや、仕事に八つ当たりしているだけなのかもしれない。

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