蜜恋ア・ラ・モード
本当の気持ち
いつもとは違う、ふたりだけの試食。と言っても、これはもう夕飯と言ったほうがいいのかもしれない。
レッスンの時のキッチン台の上ではなく、ソファーの前のローテーブルに食事の用意を整えると、薫さんと向かい合って座った。
なぜだろう。一緒に食事するのは慣れているはずなのに、何となく顔を直視することができない。
「都子さんは、どれだけ照れ屋なの?」
テーブルの向こうから伸ばされた手が、頬に触れ撫でる。
「な、慣れてなくて」
「何が?」
「こういったシチュエーションと言うか、恋愛そのもの?」
「でも洸太くんとは、普通に会話もできて顔も合わせられる」
「それは……」
洸太とは幼なじみでもう何十年と姉弟みたいに育ってきていて、それが当たり前になってしまっているからで。
今私に起きていることは、薫さんのことが好きだからこそ起きてしまう自然現象みたいなもの。それはどうしようもない現象で、そこへ洸太のことを持ちだされても正直困ってしまう。
「今日の薫さんは、朝からずっと意地悪ですね」
「そうだね。都子さんを前にすると、どうやら僕は君を苛めたくなるみたいだ。でもさっきは言い過ぎた、ごめん」
謝るくらいなら、初めから言わなければいいのに……。
でもレッスン初日といい今日といい洸太と絡むことが多かっただけに、薫さんが洸太のことを気にするのは仕方ないのかもしれない。
「洸太とは幼なじみです。付き合いは長いですけど、それ以上でもそれ以下でもありません」
それは紛れもない事実で、私が好きなのは薫さんただひとり。
ハッキリそう告げると、うんと頷いた薫さんが頬に当てていた指を唇へと移動させた。