甘い恋の始め方
理子は給湯室を出ると、部屋に戻った。

加奈はすでに帰ったようで、課長と理子より2つ下の男性がいるだけだった。

デスクの上を片付け、バッグを手にするとまだパソコンとにらめっこしているふたりに挨拶する。

「お先に失礼します」

「ああ。お疲れさん」
「お疲れ様です!」

7階フロアの女子トイレに入り、化粧を直して髪を梳かすと、エレベータに乗った。

今日の服装は婚活パーティーのようなフェミニンなワンピースではなく、シンプルなグレーのジャケットとタイトスカート。

胸元がレース素材のブラウスを着ていたことに安堵する。

ごく普通のブラウスだったら、ビジネスウーマンそのもので、悠也にひかれてしまいそうだ。

イタリアンレストランの入っているビルの前まで来ると立ち止まり、理子は大きく深呼吸した。

そのビルは待ち合わせの場所にも使われているが、今日は平日のせいか、待ち合わせをしている人が数人だけだ。

エレベータに乗ったのは理子だけ。暴れる心臓が痛い。

(こんなに胸が高鳴ってしまうのは、久我副社長が好きだから?)

憧れの人であったけれど、今は手を伸ばせば届きそうで……でも、期待している素振りなど見せずに、大人の女を演じなければと考えてしまう。

(つくづく私って、恋愛下手なんだな……)

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