オールエヌ企画の入ったビルが視界に入った瞬間、私は気持ちを引き締めた。

たった今まで、パンの入った袋をぐるぐる回していたけれど、エントランスをくぐれば、私はおしとやかな大人の女性。もうそんなことしない。

守衛を通り抜けると、エレベーター前に立て看板が置かれているのが見えた。

エレベーターは二基ある。いつの間にやら、その片方が「ただ今点検中」になってしまったらしい。

ボタンを押せば、稼働中のエレベーターが下降し始めた。

私はゆっくり柱へ歩み寄る。柱の片側が鏡になっているのだ。

自分の身なりを確かめるように半回転した。

またいつ、あの人とすれ違うか分からないのだから。


「あっ」


自分の顔をぐっと鏡に近づけた。頬にまつげが付いている。


「あぁ、また取れちゃった」


三日前に、まつげエクステをしたばかりだ。

一本、また一本と取れてしまう度に、段々と武装が崩れていく気分になる。

鏡と睨めっこをしていると、カツカツと高らかに響く靴音が近付いてきた。

その音源に顔を向けた瞬間、つい「げっ」っという心の声が口から漏れてしまった。

彼女は私から三人分くらいの距離を置いて立ち止まると、こちらを見ることなくエレベータの扉に体を向ける。


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