人知れず、夜泣き。

 「え?? 今何て?? 心配して追ってあげたんですよね?? おかげで次の日、寝不足で大変だったんですけど?? むしろ感謝して欲しいんですけど!! そしてあの日の行いを謝ってほしいんですけど!!」

 あの日の怒りが今更再燃。

 そうだ。 あの頃、オレ、木内の事超絶嫌いだったわ。

 「ごめんて。 棚卸しの日だったんだよ。 悟の浮気現場見たの」

 オレがあの日の怒りを思い出した様に、木内もあの日の光景を思い出した様で、木内の目に薄っすら涙が滲んだのが見えた。

 「棚卸しの日もそうだけど、さっきもありがとう。 助け舟、出してくれたんでしょ??」

 木内が、オレにまで下手くそな笑顔を作った。

 「・・・木内さんは、1人にならないと泣けないの?? 誰かしらの前で泣かないと、誰にも慰めて貰えないよ??」

 別に無理して笑う事ないのに。

 泣きたいなら泣けばいいじゃん。

 「橘くんももう少ししたら分かるよ。 歳を取ると人前で泣けなくなるんだよ。 泣いて許されるのは若いうちだけ。 実際ワタシに泣かれてごらんよ、うっとしいよー??」

 木内が、涙目のまま『ニッ』と笑って見せた。

 「じゃあ、今日確かめよう。 本当に木内さんがウザくなるかどうか」

 オレもわざと『ニッ」』と木内に笑い返す。

 「・・・単に橘くんが飲みたいんでしょ」

 「あ、バレた??」

 だって、オレが帰った後に木内が1人で泣くのかと思うと、胸が痛むから。
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