人知れず、夜泣き。


 部屋にあがると、木内がマスクを装着しだした。

 「・・・そんなにすっぴんが恥ずかしいのかよ」

 『たいして変んねぇのに』と若干木内に呆れる。

 「橘くんがマスクしてないからでしょうが!! 風邪、移っちゃうでしょうが!!」

 木内がマスクをしたままベッドに潜り込む。

 ・・・イヤイヤイヤ。 苦しいだろ、それ。

 息し辛くて『はぁはぁ』言ってたくせに。

 変にイイヤツ過ぎるんだよな、木内って。

 しんどいのは自分なんだから、自分の事だけ考えてればいいのに。

 「オレがするから、木内さんは外して」

 木内のマスクを外して、自分の耳にかけた。

 「ばかなの?! ワタシのマスクつけたら、風邪菌ダイレクトに口に入るでしょうが!!」

 木内が起き上がって、すかさずオレの口に当たったマスクを剥ぎ取った。

 「ばかはオマエじゃ!! いちいち起きるな、病人が!! 寝ろ!! 新しいマスクどこ!??」

 木内の腕を掴み、ベッドに押し込む。

 「・・・マスク、テーブルの上。 お薬の袋の中に一緒に入ってる」

 風邪の菌を飛ばさない様に、律儀に布団で口を覆いながら喋る木内。

 ・・・めんどくせーから、いっそ木内の風邪貰ってやりたい。
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