いとしいあなたに幸福を

02 泪雨-なみだあめ-

「――いたか?」

「いいや。そっちもか」

「ああ…この雨で足跡も気配も辿りにくくなってるからな」

風使いの民とは正反対な暗茶髪の男たちが数名、春雷の平原を彷徨(うろつ)いている。

彼らが探しているのは、襲撃した集落で唯一取り逃がした兄妹だ。

「しかしあの餓鬼共には俺たちの顔を見られてる、逃げられると厄介だぞ。あれだけ大ごとを起こせば役人も大幅に動き出すし、何より架々見の奴が煩い」

「確かに、あの兄妹は逃がすには惜しいがな…何だって奴はそんなにご執心なのかね」

「金持ちの道楽、だろ?俺たちのように金目当てでやってる訳じゃねえ」

架々見とは、彼等の取り纏め役の男の名であると同時に薄暮という国の領主の姓でもある。

「領主のご子息が他国で人狩り集団に荷担とはな…嘆かわしいねえ」

「まあ、奴の能力は役には立つが…流石に集落一つを丸ごと襲うのは大胆過ぎたな。暫くは大人しくしてたほうが良さそうだ」

「だがあいつは勢いに乗じて、他の集落も襲う気だぜ」

「まさかあの野郎、危なくなったら俺たちを見捨てるつもりじゃ…」

「この雨の中、俺たちにばっか働かせて自分はあの餓鬼どもを探そうともしやがらねえしな」

「そう言うな、薄暮で人身売買の規制が緩いのは奴が裏で手を回してるお陰だろ。今回の一斉捕獲でかなり儲けるのも事実だ…ま、持ちつ持たれつって ことだよ」



「あんな奴が、薄暮の国の…?」

集落から逃れた兄妹――その兄である悠梨は、男たちの会話を耳にして戦慄した。
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