いとしいあなたに幸福を

05 花香-かこう-

――翌年の初夏、周と都は祝言を上げた。

婚儀は霊奈の邸で催され、祝辞を述べに各国の要人が来賓として大勢訪れた。

式典や披露宴の準備で使用人たちは、当日の数週間前から大忙しとなった。

しかし慌ただしいながらも邸全体は主の一人息子の、晴れの日を祝う空気に満ちていたし、街も婚儀に合わせて祭典を催し始めた。

国中が喜ばしげな空気に包まれるなか、行われた婚儀の当日。

悠梨と愛梨は偶然、思いがけない人物を目にした。

薄暮の国の現領主――つまりあの架々見の、実の父親である。

それは、息子とは似付かない程に優しげで紳士的な雰囲気を纏う初老の男性だった。

架々見の父と知った当初こそ悠梨は敵意を露にその姿を目で追っていたが、祝宴の席で厘や周と談笑する彼の様子を見て拍子抜けしていた。

聞いた話に依ると、温厚な父に対し息子は苛立ちを感じており、父も冷淡且つ身勝手な息子には手を焼いているらしい。

しかし父親のいない周にとっては、薄暮の現領主のような人物が憧れの父親像なのだそうだ。

そんなお喋り好きの先輩使用人たちの話を聞きながら、悠梨と愛梨は祝いの席の裏方に徹していた。

愛梨には当初給仕係の仕事が割り当てられていたが、まだ幼いということで外され厨房内の仕事に変更になった。

悠梨も当初は邸周辺の警備役だったのだが、愛梨に合わせて厨房周りの手伝いに回された。

実は、何れも架々見が父親と共に訪れることを想定した周と陽司の配慮だったが、幸いというべきか架々見は邸に現れなかった。

とはいえ、愛梨が多くの来賓から好奇の目で見られる機会も減ったため悠梨としては有難かった。

――こうして、何事もなく無事に婚礼の日は過ぎ、周と都は正式に夫婦となった。

祭典も終わり、邸も街も、次第に普段通りの落ち着きを取り戻し始めていた。
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