婚恋

白紙

結局、紺野さんとの旅行はライブということでダメになった。

皮肉なことにライブにはたくさんの人が来てくれた。
でもその中に彼の姿はなかった。
それから益々4人揃うことが少なくなって
ライブも物凄く少なくなった。

練習も残業などで行けなかったり
とにかくそれぞれが自分の事で精一杯だった。
その間に私と紺野さんとの付き合いは
ただの恋人から結婚を意識する関係へと変わっていった。

紺野さんと2年の付き合いを得て私は紺野さんと
婚約をした。
婚約から8カ月後に結婚。

そう・・・私は順調だった・・・
順調だったはずなのに・・・

それは、結婚を2カ月後に控えたある日。
紺野さんに突然話がしたいと呼ばれて
私は彼のマンションに行った。

結婚したら紺野さんの今住んでいるマンションで暮らすことになっていた。
通いなれた将来の自分の家に行くと
紺野さんの様子がおかしかった。

彼は私の前でいきなり土下座をした。
何が何だか訳がわからず
一生懸命土下座を辞めてもらおうとした。
だけど動こうとしない。
そのかわり彼から発せられた言葉に私は自分の耳を疑った。
もし間違ってなければ
彼は私に

「ごめん。結婚できなくなった」と言った。

それを冗談はよしてよと切り返せるほどの
雰囲気ではなかった。
とにかく空気も重かった。

「どう・・いう・・こと・・」
震える声で一生懸命言葉を繋げようとした。
「・・・・・」
だが彼からは何もかえってこなかった。
「だから・・・どういう事って聞いてるんじゃない」
二つの握りこぶしは爪が食い込むほどだった。
でも痛みさえ感じられる余裕もなかった。
「子どもが・・・出来たって言われた」
「誰に!」
「君の後輩の・・・・小田和美」
訳がわからなかった。
どうして小田さんが紺野さんの子供を身ごもるのか・・・
「ほんの出来心だった・・・」
その一言で彼が浮気をしていたことが分かった。
怒る気持ちを何とか落ち着かせるようにゆっくりと言葉を選ぶ。
「1回じゃないわよねその浮気・・・女が1回寝ただけで男の全てを受け入れるなんて
思えない。よっぽどの策士じゃなきゃ・・・」
私は知っている。小田和美という女性を
今時の若い女性とは違っていた。
おとなしくて真面目という言葉が似合う。
あの子がそう簡単にこの男の全てを受け入れるなんて思えなかった。
だが結果的に受け入れた結果子供ができちゃった。
そして彼が選んだ結末は私との結婚を辞めて責任を取ること・・・

だったら私には選択肢などとうにないということになる。
「式のキャンセルは俺が全て責任を取る」
私は土下座している彼を
そのままにしマンションを飛び出した。
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