私は走った・・とにかく走った。
こんなに走ったのはいつ?
高校のマラソン大会以来かもしれない。

走っていたから気がつかなかったけど涙が出ていないことに自分でも驚いた。
凄くショックだったのに・・・・

でも自分がどこへ向って走っていたのか全くわかっていなかった。

しかもそんな時に限って電話かかってきた
最初は無視していたが
電話は・・・鳴りやまない。しつこいくらいになり続けている。
私は走ったまま電話に出た。
「もし・・もし・・」
「よう!おれ・・・」
陸だった。
「何の・・・用?」
走りながらだから声が途切れる。
「お前何やってんの?」
「走ってる・・・」
「何で?ジョギングでもはじめたの?太ってきたから
ってかウエディングドレスがヤバいとか・・・」
「・・・・もう・・・着ないから・・」
「は?お前何言ってんの?俺は冗談で」
あたしの足が止まった。
「私は本気。もうドレスとか着る予定なくなったから・・・」
「・・・・嘘だろ」
「もういいじゃん。あんたには関係ないし・・じゃあ」
これ以上陸に離して惨めになりたくない。
早く電話を切りたかった。
「待て!・・・・お前今、何処にるの?」
電話を切ろうとしたのにそれを拒まれた。
「わからない・・・わからないまま・・・走ってた」
私の今の状態を心配してなんだろうか
迎えにいくから目印になる建物とか街の名前が表記してある看板を
さがせとか
明らかに陸の方が慌てた様子だった。
私は走るのをやめ、周りを見渡し
今いる場所の特徴を伝えた。

どのくらい待っただろう。
一台の見慣れた白のスポーツタイプの車が私の横で止まった。
「春姫!乗れ」
陸に言われて私は黙って後部座席に座った。
車がゆっくり動きだした。
多分私の自宅へ向かっているのだろうが
陸も私も何も話をしなかった。
ずっと無言・・・
でもそれがかえっていろんな事を思い出しそうで私には苦しかった。
いつものようにバカにしてくれればいいのに・・・・
迎えに来てくれるような優しさなんかいらないのに・・・

陸の運転する車は私の家の方角とは
明らかに違うところへと向かっていた。
会話のない車の中で私は外の景色を目で追っていた。
見えるのは月・・星・・・そして・・灯り

「お腹減った」
ぼそっと言った言葉に陸が瞬時に反応する。
「飯・・・食いに行くか・・・何が・・食いたい?」
「うどん」
陸は、いい店知ってるからと車のスピードを少し上げた。


「おいしい・・・」
陸がおいしいというだけある。
こしがあり麺に汁がからみつき
汁もおいしくって全て飲み干してしまった。
陸も無言でうどんをすすっていた。
気がつけば
二人同時にご馳走さまをしていた。
そんな私を見て
「あんなに走ってりゃ腹もへるって・・・」
「ありがとう・・・」
「え?」
「なんか初めて心配されたかも・・・」
「あんな話されて、へ~そうなんだって言えるか!」

でも私にとっては初めてだった。
無関心の陸が私を心配してくれるなんて・・・

店を出て車の後部座席に乗ろうとすると助手席に座れよと言われた。
どうせいろんな女の人を助手席に乗せているんだ。
そう思うとなんだか嫌な気持ちだった。
陸が好きとかそういうのじゃないんだけど・・・

私が助手席に乗ることに戸惑っていると
いきなり助手席のドアを陸があけ
「乗れよ」と言った。
仕方なく乗ると
「お前が初めてだから・・・」
「え?」
「俺、彼女とか車に乗せないから」
「なんで?」
意外だった。
「乗せたら面倒臭そうだし、俺酒飲むから運転できなくなる。それだけ」
「じゃあ、今日は酒飲まないんだ。」
「・・・・わからん」
言ってる意味がわからなかった。
「わからないって・・・なんで?」
「俺んちで・・・飲むか」
思わぬ誘いに一瞬だけ固まった。
だが私は頷いていた。
だって陸は私の事を女だと思ってないし
今までだって何も・・・何もなかった。
だから・・・・

でも後、私はこの事を心底後悔するとは思いもしなかった。