陸に誘われて陸のマンションで飲むことになった。
メンバーと一緒にここで飲んだ頃は何度かあったけど
2人きりは初めてかもしれない。
しかも状況が状況で、決して楽しい酒になるとは思えないのだが

本当に2人でただTVみながら飲んでいる。
おっさんくさい。
何かつまみになる様なものでも作ろうと思ったけど
冷蔵庫の中はビールと水・・・
卵すらない。
「陸ってば一体、どんな生活してんの?自炊とかしないの?
「最近はしてない。帰りが遅いし・・・」
さっきの心配した様子はどこえやら
「じゃあ・・・いつもコンビニとか?」
「・・・ん・・まぁ・・・そうだったりそうじゃなかったり・・」
聞くだけ野暮だった。
この男は夕飯ぐらい作ってくれる女の人がきっと何人かいるんだったわ。
「コンビニ行ってつまみかなんか買ってこようか?」
だが返事はNOだった。

そして再び長い沈黙が続いた。
今までこんなに居心地が悪いと感じたことはなかった。
たぶん、私が一人にならないようにという配慮だと思うんだけど。
これじゃ肩が凝っちゃいそう。
時計を見たらもうすぐ日付が変わろうとしていた。
まずい・・・終電ないかも・・・こりゃ~タクシーだ。
「陸・・・ありがとう。私帰るよ。」
立ち上がろうとする私に陸が話を切り出した。
「理由・・・聞いていい?」
目線だけ私の方を見つめる。
「理由って・・・もう日付変わっちゃうし・・・それに・・」
「違う!その理由じゃない」
「違うって・・・あっ」
ウエディングが着れなくなった理由か。でもなんで今なのよ。
帰るって言ってるのに・・・
「彼氏に・・・って元カレだよね。子供が出来ちゃったんだって。しかも
私の後輩でね。凄くまじめな子・・・・その子との間に子供出来ちゃったんだって
そんな状況で平気な顔して私だけが幸せそうな顔でウエディングドレス着れないでしょ?」
冗談ぽく言ってみたが、陸の顔は険しかった。
「なーんで、そんな険しい顔してんのよ。私がしてるならわかるけど・・
それにさっきめっちゃ走ってすっきりしたよ。
結婚する前にわかってよかったよ。結婚後だったらバツイチになっちゃうし」
「俺に遠慮すんなよ。」
「遠慮なんて・・・別に」
「してるよ・・・思ってる事吐き出しちまえよ」
陸の言葉に言葉が止まる。

ずるいよ。
いつもそっけないし、自分が助けてほしい時しか頼らないくせに
いつも私の事なんかどうでもいいって顔してるのに
こんな時だけずるい。

ずるいのに・・・・

「あと・・・あと・・2ヶ月だった。そしたら私、紺野さんの奥さんになれたの。
紺野さんとの将来が待ってたのに・・・なんで和美ちゃんだったのよ。
他の女だったらパンチの一発くらいお見舞い出来たのに・・・
何で・・・何で・・・彼女なのよ。信頼してたのに」
涙がフローリングにポタポタと落ちるのがわかる。
でも言葉が次から次へと出てしまう。

「くやしいよ~~。大好きだったのに・・・私の何がいけなかったのかな?」」
その時だった後ろから陸に抱きしめられた。
「!!!り・・く?」
「春姫は何にも悪くない。春姫が反省する必要はない。
お前の良さは俺らが一番知ってる・・・俺・・・が一番」
陸の身体が離れたかと思ったら、私を陸の方に向かせ、
向かい合う形になった。
陸はとても優しい眼差しで私の涙を手で拭うと
「春姫は何も悪くない」
陸が私の顎を持ち上げた。
それが何を意味するかわかった。
だけど動けなかった・・・・
陸の顔が徐々に近づいた。
そして唇が重なり合った。

何で・・・
何でこんなことするの?

唇が離れた・・
「私・・・帰る」
「待てよ。もう電車が・・・」
「タクシーで帰るから・・・」
私は逃げるように家を出た。

唇の感触は家についても残っていた。
私は紺野さんとの事よりも陸とのキスの事で
眠れなかった。