jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】

カレー

平日は、ほとんど香さんの店を訪れていた。
彼は、どうも店の2階で1人暮らしをしているようなのだ。
誰かと同居している様子もなく、普通にわたしを2階へと上げる。
家事や仕事を手伝っているうちに、アルバイトとして雇うと言われたが、お金を貰うのは気が引けるので、それ以外のものを気が向いたときに貰えたらいいとだけ伝えた。
わたしはまるで家政婦のようだが、全く苦になることはなく、むしろ極上の幸せを噛み締めていた。

店へ行く前に、近所のスーパーで買物をしていくのが日課だった。
今日も心の中でハミングしながら、仕事中に考えたメニューの材料をカゴに入れていった。
ちなみに、今日の晩御飯はカレーだ。
ここでわたしは重大なことに気付いた。
(香さんは、何口なのだろう?)
咄嗟に携帯電話を取り出し、メールを打った。
わたしの予想は、甘口だ。
店内を回って、時間稼ぎをしながら返信を待っていると、10分ほどして携帯が鳴った。
(・・・・・・やっぱり)
香さんと出会ってから、些細なことにも幸せを感じられるようになり、自然と微笑む頻度が増えた。
幸せに釣られた蕾という魚は、口角を上げる。
だけど、その幸せは真っすぐだろうか?
ただ、歪んだ愛が2つに増えただけなのだろうか?
それとも、わたしが歪んでいるのだろうか?
1つ確かなことは、レジ袋に商品を詰めるとき、ガラス越しに映った顔は、今までにはありえないくらい妖艶だということだ。



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