jack of all trades ~珍奇なS悪魔の住処~【完】

罰ゲーム

わたしは、店内の掃除を手伝っていた。
はしごに登り、エメラルドグリーンのレトロなほこりたたきで、普段は手の届かないような天井に近い部分を掃除していた。
端まで到達したので、ひとまず、はしごから降りようと、ほこりたたきを左手に持ち替えたとき、すぐ下の棚にあった物に当たってしまった。
案の定、その物体は床に落ちていき、割れる音が鳴り響いた。
「蕾!? 大丈夫か!?」
「ごめんなさい・・・・・・香さん・・・・・・」
わたしは、急いではしごを降りながら謝った。
絶対叱られると思っていたので、わたしの安否を気遣ってくれた香さんに感謝しながら、今度は頭を下げて丁寧に謝った。
「本当にごめんなさい・・・・・・」
香さんの店には、レアものが多く、手に入れるのに時間や費用を費やしたものがほとんどだ。
だから、1点1点が貴重で思い入れが深い。
そのことが分かっていたからこそ、自分の失態が許せなかった。
悔しさと申し訳ない気持ちでいっぱいになって、涙が溢れてきた。
下を向いたわたしの頭を、香さんは優しく撫でてくれた。
「蕾、気にしなくていいよ。気持ちはちゃんと伝わったから。蕾が落としてしまったのは、小さい陶器の壺だね。大丈夫、接着剤でつなぎ合わせて、つなぎ目を加工すれば元通りになるさ。非売品にすればいい。このハプニングだって、2人の思い出だろう。そう思って大切にすれば、この陶器君も幸せだと思ってくれるはずさ。そうだね、もっと心に残るように、蕾には罰ゲームを与えることにするよ」
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