ルビーインゾイサイト

嵐の前触れ

パーヴェルはトラメの森に留まっていた。激しい雨にソロモンの鍵を紐解いている。
雨が止み、静寂に鳴き始めた森の小さき者たちの声がパーヴェルの心を休めていると、扉を叩く音がした。ソロモンの鍵を机いに叩きつけ、扉を開けた。ただではおかないと恐ろしい剣幕で虚空をパーヴェルは見やった。
うめき声がして、下を見ると少年が倒れていた。
別に悪い奴ではないので、パーヴェルは少年を看病した。
熱に浮かされた少年はパーヴェルのベッドで一夜を過ごした。空が白み始めると少年は片時も離れず看ていてくれたパーヴェルの姿を見た。
「具合はどうだ。」
パーヴェルが少年に尋ね、少年の頭を撫でた。
「えっと、喉が乾いた。」
少年は呟くと体を起こした。
「わかった。」
パーヴェルはそう言って少年に水を飲ませると、満足げだった。
「名前は?」
パーヴェルが少年に尋ねた。
「ベルリナイトのベルリオーズ。」
と少年は答えた。
「そうか、私はパーヴェルだ。みんなからはジェットと呼ばれている。」
パーヴェルが自己紹介すると、ベルリオーズは目を丸くした。
「ジェットなの?僕ジェットに憧れてトラメの森に来たんだよ。オジサンも同じ名前なんだね。」
ベルリオーズがなんの疑いもなく話すので、
ジェットであるパーヴェルはうなずいた。
「君はなんで、そのジェットに憧れているのかな。」
少年は黙り、うつ向いた。
「僕のパパとママは早くに死んで、僕は叔父さんの家に預けられんだ。叔父さんと叔母さんは僕を愛してくれたけど、僕は本当の子供じゃないから、そんな事なんでもないんだって思いたくて、ジェットみたいに強くなりたいと思ってトラメの森に来たんだよ。」
パーヴェルはベルリオーズの話を真剣に聞いた。
「しかし、本当の強さは物事から目を背けることではなく、物事を直視し、解決する事じゃないかな。」
パーヴェルが諭すと、ベルリオーズは目を丸くして、ジェットの言ってることがわからないようだった。
「まぁ、いいさ。これから、私が色々面倒を見る。」
これから、ベルリオーズはモルガと名前を変えて、メーム王国のオブシデアン王を操る黒幕へと成長する。
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