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暴かれる光の本

 陽だまりの中で、雨露の煌めきが妖精の姿を見せる。ミヒャエル・レヴィンは夕陽に染まるリュケイオンで友を待った。
陽はオレンジと赤紫になり、細くたなびく雲の隙間から天上界の灯を見せるかのようだった。
赤く染ったレヴィンの横顔は、ギリシアの神話の美しさを湛えて、ファイ・フィリアの姿を見つけた。

「黄昏れるユダヤ人か。」

フィリアは赤メノウのファイ・オテリアの息子でファイ・プシュケーの甥である。

「今はブラックホールについて考えてたんだ。さっきの講義だけど、ブラックホールの特異点が超ひも理論でわかると言っていて…」

「レヴィンはユダヤ人だろ。世界で一番賢い人種だってね。」

フィリアはお手上げと言った仕草でレヴィンに言った。

「関係ない事だよ。ヒトは人だから。」

レヴィンの隣にフィリアは腰を下ろした。
リュケイオンの正門前は、扇型の階段が下に行くにつれ、狭くなっていた。その階段に2人は座っていた。
風が吹くとフィリアからペンキの香りがした。
フィリアはペンキ屋でレヴィンはその匂いが好きだった。
「ルカの授業を見に行かないか?」
フィリアはレヴィンを見ずに言った。
「ルカの授業か。地下にあるからねとても気になるよ。」

「確か政治の授業をしてるはずだ。」
フィリアがレヴィンを見て言った。
「ルカだ。」
レヴィンがリュケイオンを指して言った。
パウラ・シェリングという娘とルカが一緒にいて、
パウラ・シェリングをルカが見送っているのだ。
「パウラはフィリアが好きだったのにね。」
レヴィンは呆気にとられて言った。
「構わないさ。」
パウラはフィリアの横を通り過ぎて、階段を降り切った。
特に興味があったわけではないが、パウラに興味を無くされる事は、寂しくもあった。
「ルカ!いつの間にパウラ・シェリングと仲良くなったんだ。」
ミヒャエル・レヴィンが冷やかしのように言った。
「いや。雨の中ふたりで帰るって言うのはいいもんだね。」
とルカ・コルテスは笑った。
「パウラはフィリアが好きだったろ。」
レヴィンはからかった。フィリアは幾分顔をしかめた。
「関係ない。」
フィリアはため息をついた。
「傘に入れてもらった時に仲良くなったんだ。傘をかえしたから。」
傘をかえすと仲良くなれるのかとレヴィンは頷いた。
パウラ・シェリングはとてつもなく美しい顔をしていたが、いつも不思議な格好をしていた。
パンクスのようだった。

フィリアは例の通り赤メノウの軍に入るさだめが敷かれていて、
ルカ・コルテスとミヒャエル・レヴィンの2人はモーニッシュの国に産まれた人であり、フィリアよりも短い命のさだめの中にあった。
フィリアはさだめを呪い、父を嫌っていた。
「でも、フィリアでは駄目だったね。」
ルカが言った。
「どうして。」
フィリアが不思議そうに聞いた。
「傘で2人で帰る時にフィリアは相手の肩に雨がかかるのを気にするか?」
ルカは肩をすくめた。
「なんで気にしなきゃなんないんだよ。自分の身は自分で守るもんだろ?」
フィリアは本当にわからないといったように訪ねた。
「フィリアと相合傘すると僕はいつも濡れて帰ってると思うよ。」
レヴィンは笑いながら言った。
「フィリアだからな。」
ルカはレヴィンと見合わせて笑った。
「まぁいいじゃん。そうだルカの受けてる授業を観に行きたいんだ。」
フィリアが話の腰を折って言った。
「政治のか?なんで、面白くないよ。」
ルカが返した。
「ピューマ教授の授業だからある程度は予想がつくよ。」
フィリアが立ち上がりながら言った。
「リュケイオンの地下に用事があるんだ。」
それを聞くとルカはなるほどと頷いた。
リュケイオンはモーニッシュ城が改装された学園なのだ。
モーニッシュ城の主アレハンドロの部屋があった地下室の書斎は地下図書室として使われ、政治の授業が行われた。
殆ど改装されずに残っているため、アレハンドロの死体が埋められているのだと噂されていた。
フィリアはアレハンドロの死体が埋められていることより、もっととんでもないものが隠されている事をデルモンテ准教授から聞き出していた。
それが『光の本』なのだ。












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