極上の他人
お見合い、らしきもの



「また……ですか?」

亜実さんから持ち込まれた何度目かのお見合い話に、私は大きなため息を吐いた。

「私、この春に入社したばかりの新入社員なんですけど……」

「だからどうしたの。結婚するタイミングに、早いも遅いもないのよ」

その声に促されるように釣書と写真を渋々手に取り写真を見れば、予想に反してラフ過ぎる服装で、なにやら企んでいそうな黒い笑顔が私を見つめていた。

「男前でしょ?以前は塾の先生をしていたらしいんだけど、今はバーの店長をやってるの。
最近雑誌にも紹介された人気のお店よ。私の友達の弟で、お勧め中のお勧め」

目の前で楽しげに話す彼女は、女性初の管理職として有名な人。

わが社の女性の士気を高める存在であるはずなのに、本人に全くその自覚はない。

日々のんびりと仕事をこなしながら、社内恋愛で結婚した年下の旦那さんと、『葉乃ちゃん』という幼稚園に通う女の子との暮らしに意識集中、幸せ満喫中の日比野亜実さん。

いえいえ、日比野課長。

課長と呼ばれる事に抵抗を感じるのか、普段から『亜実さんでいいから』と言ってはふんわりと笑っている。

彼女は、私の新人社員研修中の担任で、それ以来何かと面倒をみてくれる。

顔を合わせる度に、お見合いやらコンパやら、彼女の人脈全てを使って幾つもの話を持ってきては、私をその気にさせようと虎視眈々。

まあ、私だけではなく、社内の独身社員全てが彼女のターゲットで、『お見合い』やら『合コン』やらをセッティングしては、縁結びに精を出している。

亜実さん自身、まだ30代前半で若い社員との交流も多いせいか、課長という役職とはいえ親しみやすい。

普段から面倒をみてもらっている私は、度々ターゲットにされては『お見合い』の場に送り込まれそうになる。


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