三十路で初恋、仕切り直します。
5 --- 高級車とハイスペック男は好物ですか?

「泰菜、久し振りー!!」


定刻をわずかに過ぎて『蓮花亭』に到着すると、個室にはすでに泰菜以外のメンバーはみんな揃っていた。遅れて入室してきた泰菜を見て、示し合わせたようにみんながにやりと笑う。


「じゃあ今日のおみや代は泰菜に決定ね。いちばん乗りは弥生ちゃんだから、弥生ちゃん、なんでもすきなもの泰菜に買ってもらいなよ」


高校のときから泰菜たちが集まるときにはささやかなルールがあって、待ち合わせにいちばん遅れたひとはいちばん早く来た人に何かをおごらなければならないという決まりがあった。

学生の頃はチロルチョコとか缶ジュース一本などほんとうにささやかなもので、大人になった今は食事をおごったりテイクアウトできるスイーツの代金を肩代わりしたりしていた。



「泰菜。この前はわざわざ台湾まで会いに来てくれてありがとうね。今日はベリーのコンフィチュールおねだりしてもいい?」
「わたしも弥生ちゃんと旦那さんに会えて嬉しかったよ!……ベリーはわたしも狙ってたやつだぁ」

「おみや狙いだったの?それでいちばん遅れて来るなんて駄目じゃない」
「『蓮花亭』のコンフィ、おいしいよね。次いつ買いに来れるか分からないしわたしも自腹で買ってこ」

「そういえばだいたいいつも時間通りに来る泰菜がいちばん遅刻してくるなんて珍しいわね」



何気ない言葉のはずなのに、言われて思わずぎくりとしてしまう。

べつに疚しいことはないはずなのに、ここに来る直前までラブホテルにいたという事実が何か特別に意味のある秘密のように思えて落ち着かない気分になる。



「具合悪いの?少し顔が赤いみたいだけど」



心配そうに言ってきたのは昨晩会えなかった美玲だ。


「ううん、大丈夫。美玲の方こそ、葵くんのお熱大丈夫だった?」
「昨日は急にごめんね。夜、旦那に任せて泰菜と久々にゆっくり会うつもりだったのに。葵は今朝もう熱が下がって、たいしたことはないみたいなの。今日はパパとお義母さんと家で留守番してるわ」

「それならよかった。わたしのことは気にしないでよ、あんまり恐縮されちゃうと次誘いにくくなっちゃうじゃない」


どうにか平静を装った受け答えが出来ているなとほっとしかけたところで、いちばん窓際に座っていたエリカと目が合う。


高校時代面白半分に『エリカ様』と呼ばれていた彼女は、気の強いはっきりした性格がそのまま顔立ちに表れたちょっときつめに整った美人で、10代の頃から常に男を切らしたことがない女王様気質の肉食系だ。

キープしている彼氏がいながらさらに条件のいい男を捜すためにお見合いや合コンも欠かさない公言するとつわもので、同じ独身とはいえモテるわけでも積極的でもない泰菜とはだいぶ違う立ち位置にいる。



そのエリカ様が、丁度座ったままの姿勢で見える窓の外を指差して言った。



「さっきさぁ、そこの駐車場に『イルメラ』が停まってたのよね」





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