「ねえねえ弥生ちゃん!こっちの三つは季節限定のコンフィチュールだって。柚子ジンジャーと温州みかん、シナモンアップルもある。どれもおいしそう」


目の前に並んだ色取り取りの小瓶を手にして、泰菜がたのしげに声をあげる。


「あ、こっちはココアとナッツのスプレッドだって。これもおいしそうね。ね、弥生ちゃん。どれがいい?わたしも何買うか迷っちゃうな」
「……ねぇ泰菜」


奇妙なテンションではしゃぐ泰菜に、弥生が気遣わしげに訊いてくる。


「あのまま桃木くん置いてきちゃってよかったの?」


泰菜と弥生は今二人だけで『蓮花亭』のカフェスペースに併設された一階の売店に来ていた。ここでは種類豊富なコンフィチュールと手土産になるようなちょっとした焼き菓子を扱っていた。

エリカや杏奈に捕まった法資を貸切部屋に置き去りにして、「おみや買って来る」と弥生を連れ立って退室してきたのだ。



「泰菜も見たでしょう、わたしたちが出て行くときのエリカ様のあの顔」



足早に出て行く泰菜を見て、まるで勝ち誇ったように笑ったあとエリカはこれみよがしに法資の腕に擦り寄った。


「あれ、結構本気でゲットモード入っちゃってるわよ?あんなにベタベタされて嫌じゃないの?」


たしかに法資のシャツの袖口を掴んでつんつん引っ張ったり、普通なら躊躇うような距離まで接近して喋るエリカの態度はひどく馴れ馴れしいものだった。けれど得てして美人のそういう態度は男ウケがいいものだ。


「べつにいいんじゃない?みんなに囲まれて法資もたのしそうだったし」
「泰菜。だめよ、嫌ならちゃんと桃木くんにもエリカにも嫌って言わなきゃ」


弥生はいつも温厚な顔に少しだけ厳しいものを浮かべる。エリカに高校時代彼氏を略奪された経験がある所為か、泰菜以上に気を揉んでいる様子だ。



けれど。



「-------いいのよ、あんな大嘘吐き」


興味ない態度を装って、泰菜は目の前に並んだ小瓶のうちシナモンアップルの瓶を手に取った。