三十路で初恋、仕切り直します。

弥生と夫であるアレンは、大学の研究室が一緒だったことで親しくなったと聞いている。

アレンの方が弥生に惚れこみ、招待した台湾のショッピングモールで地元の仲間たちとフラッシュモブを敢行したり、数十発の花火を打ち上げたり、街中の電光掲示板にメッセージを載せたりと、熱烈でど派手なプロポーズ大作戦を次々に決行したという。その話は泰菜たちの間でも語り草だった。


泰菜が台湾まで会いに行ったときは、弥生にべた惚れのアレンは勿論のこと、弥生も伴侶に並々ならぬ愛情を注いでいるのが、二人の間で交わされる少ない言葉数の中にも、さりげない目配せの中にも感じ取れた。



「本当に素敵だったよ?弥生ちゃんとアレンさんの夫婦を見てるだけで、わたしも幸せ気分、お裾分けしてもらえたし」



べたべたと触れ合うことがなくても、そこには確かに思い通じ合うふたりの間にだけ通う、満ち足りた空気があった。


「……弥生ちゃんとアレンさんが羨ましい」


泰菜が呟くと弥生はくすぐったそうに笑う。


「ありがとう。でも彼、やきもち焼きで大変なのよ?自分以外の男の人がわたしのこと名前呼びするだけで馬鹿みたいに怒り出すし。普段すごく温厚なくせに、そうなるともう癇癪な子供みたいなんだから」
「いいじゃない、なんか愛があって」

「気楽に言ってくれちゃって。結構大変なのよ?……わたしはずっと泰菜のことが羨ましかったわ」
「……法資のことなら、弥生ちゃんが思っているのようなのとは全然違うよ?」

「うん、恋愛感情じゃないかもしれないけど、でも桃木くんは泰菜のこと」
「違うよ。……全然大切になんか思ってないっ」


弥生の言葉を遮って出てきた言葉は、自分が思うよりも冷たく響く。感情的になる泰菜に弥生が驚いたような目を向けてくる。


「ごめん、弥生ちゃん。でも本当に、わたし愛されてるとか、そんなの全然違うから。高校のときだって---------」









--------あれはまるで、見世物みたいだった。






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