何故、泣くのだ。
平成少女、望月 龍香。


暗い夜だった。
今夜はいつにもまして暗い夜だった。

私は1人、自宅のリビングでソファに沈まり、
けたたましい声で騒ぐテレビを冷めた気分で
見つめていた。

「はぁ……」

無意識に溜め息をつく。
ふと、時計を見上げれば、長短の2本針は
仲良く12を指して重なりあっている。

「はぁ……」

長い針が短い針をほんの少し追い越したと
同時にまた、無意識に溜め息が吐き出される。

今日もまた、
母親が帰ってくることはなかった。
もう何日目だろうか。少なくとも1週間は
見ていない。

別に仲が悪いわけではない。ただお互いに
自由にやっているだけだ。
父親が自殺してからは自然と母親との会話も
減っていった。元々、両親の仲は良くなくて、
けれど、八つ当たりされたりがあったわけ
ではない。

ただ母は私を愛さない。これだけは言える。
彼女は私を好いていない。借金まみれのまま
自殺した父にそっくりな私に、愛情を注ぐ
事をしたくなかったんだと思う。
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