凪とスウェル
島の自慢は
その週の土曜日、あたしは朝早くに母さんに叩き起こされて近所の果樹園へと向かった。


この辺りはレモンの栽培が盛んで、無農薬でおいしいレモンが沢山収穫できるのだ。


近所におばあちゃんの弟が住んでいて、果樹園は全てその弟さんのものだ。


おばあちゃんはその手伝いをしている。


それで生計を立てているのだから、これからお世話になる母さんもあたしも手伝うのは当然なわけで。


だけど、つい最近まで都会っ子だったあたしが害虫駆除に借り出されるとは…。


人生どうなるかわからないものである。




作業は結構時間がかかって、お昼までみっちりやらされた。


虫が大嫌いなあたしだけど、とりあえず葉についている虫は飛びはしないから、ゴム手袋でなんとか頑張った。


家に帰って昼食を食べた後、結構な汗をかいていたあたしはシャワーを浴びた。


「はー、さっぱりした」


玄関横の和室に行くと、カチッと扇風機のスイッチを付けた。


ビックリな話だけど、この家にはエアコンが台所に一台しかない。


だから、縁側の窓は常に開いているんだ。


扇風機の前にあぐらをかいて座り、濡れた髪を乾かす。


風が気持ち良くて目を閉じていたその時、玄関でガタンという音がして「毎度ー」という声がした。


誰かが来たようだけど、あたしには関係ないのでとりあえず放置。


だけどおばあちゃんは聞こえてないのか、台所から出て来ない。


「キヨさーん」


男の人の元気な声が廊下に響く。


うっ、これはあたしが出た方がいいのかな?
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