やくたたずの恋
9.彼女は、春の色。(中編)
 雛子が敦也と共にマンションを出ると、エントランス前の車止めに、大きな黒い車が停められていた。
「さぁ、乗って」
 運転手がドアを開ける後部座席へと、敦也は雛子を誘う。まさにレディファースト。しかも爽やかでさりげない感じだ。
「今日のパーティーは、本当に内輪だけのものだから、緊張しないでね」
 雛子に続いて車に乗り込んだ敦也は、ゆったりと微笑む。優しく甘い笑顔。琥珀色に輝く、ハチミツのようだ。
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