やくたたずの恋
4.恋は、あせらず。(後編)
 その後、影山社長はとりとめのない話をいくつかして、帰っていった。
 玄関で社長を見送り終えると、父は隣に立つ雛子へと怒りを露わにした。
「男の一人も説得できないとは、どういうことだ!」
 玄関から繋がる廊下へと、父の怒鳴り声が稲妻のように走る。くわばらくわばら、と唱える暇もなく、雛子はすぐさま頭を下げた。
「ごめんなさい、お父様。恭平さんが、私の話を聞いてくださらなくって……」
「言い訳はいらん!」
 ギリ、と歯ぎしりの音が、父の薄い唇の奥から聞こえる。
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