やくたたずの恋
8.彼女は、春の色。(前編)
「影山ちゃーん! できたよー!」
 恭平のいる事務室へと、悦子が準備のできた雛子を引き入れた。お化け屋敷にでも入るかのように、雛子はおそるおそるドアを潜る。
 小柄で童顔な彼女でも、大人っぽく見えるように、と悦子がスタイリングした、黒のカシュクールワンピース。それを身につけた彼女が部屋に現れると、デスクにいた恭平も思わず目を見張る。
 恥ずかしさのあまり、伏せがちになった瞼には、アイスブルーのシャドーが乗っている。色白の肌に花咲くように、唇もみずみずしいピンクを発色していた。
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