それでも、僕は恋をする。



今、僕の目の前に、顔を赤らめてうつむいている女子がいる。

場所は人気の少ない放課後の渡り廊下。

この状況からして、次に彼女が発する言葉は、僕が思い描いているものに、十中八九、間違いないだろう。

そして、僕はその先の『言い訳』を今、思案している。

「君島くんのことが、ずっと好きだったの……」

ほら、やっぱりね。

恥ずかしさと緊張のあまり顔をあげられない彼女を見つめながら、予想どおりの彼女の言葉に僕は大きく息を吐いた。

さあ、次は僕の番だ。

「ありがとう。気持ち、すごく嬉しいよ。……だけど」

僕が逆接の接続詞を発したとたん、彼女はさらにうつむき、唇をかみしめた。

こんなにつらそうな表情をされると、僕だって、つらい。

だけど、ちゃんと振ってあげるのもまた、優しさというものだ。

そして、振られる理由は、これが一番、納得がいく。

「好きな人がいるんだ」

僕の言葉に、彼女は首ふり人形のように何度も首を縦に振った。

そして、それはそれは痛々しいほどに無理して作った笑顔を僕に向け、

「気持ち、伝えられてよかった。聞いてくれてありがとう」

と言って、走り去っていった。

僕は、走り去る彼女の背中を眺めながら、大きく深呼吸をした。

「……ごめんね」

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