「……もうイヤやっ。やめてっ!」



 薄暗くてほこり臭い「倉庫」と呼ばれるこの場所が、私は大嫌いだ。

 港近くのコンテナを収納していた広くて殺風景なこの場所を、目の前の男が買い取って暴走族のたまり場にしたらしかった。

 打ちっ放しのコンクリートの冷たい壁と床。高い天窓から差し込む、ぼんやりとした月明かり。



 ――あそこから、逃げだしたい。



 現実逃避した頭が、そんな願いを抱く。

 けれど、そんな願いなど叶うはずもなく、すぐに現実へと引き戻される。

 辺りに充満する青臭くて不快な匂い。

 瞬間、吐き気を催し、胃の中のものを洗いざらいぶちまけてしまいそうになる。

 パイプ椅子に腰掛けた男の前に、傅《かしず》くように跪《ひざまず》かされ、何度も嘔吐きながら、鼻先に怒張した凶器を突きつけられる。


 ――ちくしょう、ちくしょう、ちくしょうっ!!


 理不尽な行為を強いられる怒りで、悔し涙が滲みだす。


「はよ銜えろや。グズグズすんな」


 背けようとする顔をグッと押さえ付けられる。



 こんなモノ、喰いちぎってやりたい!



 最初にそれを強要された時、思い切り噛み付いてやった。

 そうしたら、全身が青黒くなるほどに暴行された。

 お腹を蹴られ嘔吐した自分の吐瀉物と男が放った体液に塗れた汚物のような私の身体を、アイツは何度も何度も。陰惨に笑いながら、繰り返し蹴り上げ殴打したんだ。


 そして、次にやったら腹を切り裂いてやると脅されて。


 それから抵抗することが怖くて。なにも出来なくなった。

 命じられるまま感情を手放し、私は彼の人形《ドール》になる以外選択肢はなかった。

 そして、私はこの男の、性欲処理のための便所にさせられるんだ。


「さっさとせえや!」


 パンッと乾いた音がして、視界がブレる。

 叩かれた頬が熱く熱を持つ。

 倒れ込もうとする私の髪を掴み上げ、また男の前に顔を向けさせられて。

 溢れ出す涙をそのままに、私は口を開けて目の前のそれを銜えた。


「……ふ。それでええんや。逆らおうなんて思うな。お前は弦龍《げんりゅう》新愚連隊の《姫》、俺の女やねんからな」





 ――違う、違う! 私はアンタの女やない。私はアンタなんて好きでもなんでもない! 嫌いや、大っ嫌い!死んでまえ!



 私はその言葉を何度も言った。

 けれど、目の前の、熊のような巨躯を持ち、ゴリラのような容姿の男に、いつも力でねじ伏せられる。

 抵抗することなど許されなかった。

 一月前、ママが事故で亡くなり、父がいなかった私は一人になった。

 高校卒業まで後数ヶ月。

 それまで何とか頑張ろうと思った。

 ママが残してくれた僅かなお金と、バイト代で何とか生活できたから。

 それなのに。

 私はこの男に捕まってしまった。

 この男とは中学校が一緒だった。1つ上の先輩。

 しつこく言い寄られていたが、暴走族に入り、素行のすこぶる悪かったこの田口豪《たぐちつよし》を、私は常に警戒し、避けていた。

 彼が卒業し、ホッとしていたのも束の間、この男は、私が入った高校やバイト先にまでも現れて。執拗に付きまとうようになった。

 そして、ママが亡くなって、私に頼る身寄りがないことを知った豪は。


 私を攫ったのだ。



 私を攫った日。

 彼は自分が率いる暴走族のメンバーの前で、私を犯した。



『これが俺ら関西一の暴走族・新愚連隊、弦龍の姫や。俺の女や。お前ら手ぇ出したら殺すで。ええな!!』



 恫喝の声を上げ、この男は泣き叫ぶ私を殴りながら、嬉々と私の身体を引き裂いたんだ。




 それから私は学校にも行けず、豪の住むマンションに2週間近くも捕らわれ続けている。

 学校やバイト先から捜索願が出されていないか、私は期待した。救いを待った。

 けれど、救いはなく。

 豪は言った。


『助けを求めてもムダやで。俺は関西を仕切る田口組代紋頭《組長》の孫やからなあ。親父も若頭やっとる。お上《警察》に言うてもムダやねん。お上にかて顔きくしな。なーんぼでもムリはきくんやで。それにな、組のモンに言うて、お前はもう大阪から引っ越したことにしてもろた。手続きも終わっとる。せやから、期待してる所悪いんやけどな。捜索願なんぞ出てないんやで?』


 残念やったなあ。


 その瞬間、私の願いは粉々に砕け散った。



 助けて。助けて。


 私はずっと叫んでいた。

 何度も逃げだそうとして殴られた。

 その度に、身体が砕けそうなほど乱暴に抱かれて。

 そこに、私の意思などない。

 まさに、ドール。

 生きたダッチワイフそのものだった。

 中学生の頃、豪の周りの女子達は、彼の《姫》になりたいと言っていた。何かのブランドや憧れのように思っていたようだった。

 けれど、私は興味がなかった。

 それよりも、怖いという思いしかなかった。

 なのに。

 こんなことをされるのを、女子達は望んでいたのだろうか。

 暴走族など荒くれ者の集団だ。

 力でねじ伏せ、言うことを聞かす、野蛮な奴ら。

 豪に連れ去られ、乱暴されて、それがはっきりとわかった。





 豪に抱かれ、私は心を閉ざした。


 この男は異常だ。

 このままでは、わたしは近い未来、この男の子供を孕んでしまうかもしれない。

 今はそれが怖い。

 豪はそれを望んでいる。

 望んでいるから、初めて乱暴された時からずっと、避妊などしてはくれなかった。



『お前は俺の子を産むんや。じいちゃんが代紋頭やっとる田口組は俺が継ぐんや。お前は田口組を引っ張る俺の嫁になるんやで。嬉しやろ? 女は皆それを望みよる。新地に行ったら女ども目の色変えよるからな。でもな、俺の隣に立つんは、お前だけや。お前だけ。他はいらん。だから、俺を裏切るな。ええな?』


 その言葉に、私の未来はもうないのだと知った。

 もしこの男が望むように子供が出来てしまったら。


 その時は死のう。


 心と身体がどす黒く穢れ、壊れてゆく中、私は強くそう思った。








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