明日、嫁に行きます!
廊下が腐界と化していたのだ。
「なんで廊下に靴下とかシャツとか書類とか缶とか……うそっ、なんで灰皿が、って踏んじゃった! ナニこれマジで!? あり得ないくらい散らかってるんですけど!?」
男の部屋は雑然としてるものだという認識はあったんだけど、雑然どころの騒ぎじゃなかった。
足の踏み場もないのである。まさに汚部屋。人間の住む環境じゃない。家畜小屋でももっとマシだろうと目眩がしてくる。目の前に広がる凄絶なまでの光景に、私は愕然と立ち竦んだ。
「僕は家事一切が出来ません」
さすが社長だと賞賛したくなるくらい威厳に満ち溢れた姿で、そこが腐界でさえなかったら惚れてたかも、なんて思うほどの見事な堂々っぷり。しれっと言い放つ鷹城さんに、きょとんとなる。
「家政婦が先週辞めてしまったため、そのままにしてました」
先週って。
たった一週間でこうも汚くなるものだろうか。
泥棒が入ったとしても、こんなに汚くはなるまい。
口元をもごもごさせながら、私は呆然と、腐界という名の汚部屋を眺めた。
「さて、貴女はこの惨状を見て、どう思いますか」
いきなり質問されて、ハッとなる。
どう思うかって?
そんなの決まってる。
大きく息を吸い込んだ私は、我慢していた口元を大解放した。
「あっははははははっ! 我慢できないっ、なにこの二面性、ウケる! イケメン社長で女にモテモテな完璧男が、ふ、くくっ! しかも『惨状』って自分で言ってるし! 自覚あるなら片付けなさいよ! あはははっ」
涙を流しながら笑い転げる私に、鷹城さんは観察するような目を向けてきて、やっぱりといった顔で頷いている。
それが何故かわからないけれど、とにかく私はこの汚部屋を何とかしなければと『しっかり者』の代名詞・長女気質に火が付いて、洗濯物とゴミとを仕分けながらやっとこさリビングに到着した時、さらに笑いのツボを刺激されて大爆笑してしまった。